第27話 再会
皐月とクズの断罪イベントがあった日からしばらく経ち、今では桜さんと毎朝一緒に登校するのが日課となっていた。
そして今日も、俺はいつものように駅で桜さんを待つ。
「凛くんやっほー!」
「おはよう桜さん」
「えへへ、おはよう」
改札口から勢いよく出てきた桜さんが俺の元へ駆け寄り、朝の挨拶を交わす。
「そうだ凛くん、もうすぐ期末テストだけど、ちゃんと勉強してる?」
「うぐ!?」
くう、朝から桜さんに痛いとこ突かれた。
そうだったよ、期末テストがあったんだよ……。
皐月の浮気のこともあって、全く手をつけてねえ……。
ま、いいか。
どうせいつもまともに試験勉強してないんだし。
「うん、凛くんの反応見て分かったよ……とにかく! 凛くんに赤点取らせる訳にはいかないから、今日から勉強だよ!」
「ええー……」
そんな……勉強なんかしてたら、桜さんとの時間が減っちゃうじゃないか……。
「だから、ちゃんと凛くんが勉強するか、今日からボクが監視します」
「へ?」
「もう! 鈍いなあ……だから、一緒に勉強しようって言ってるの!」
「うおおおおお!」
「わっ!?」
なんだよこれ! 最高かよ!
桜さんと一緒に勉強イベだなんて、どんなラノベだよ!
「ぜひ! ぜひお願いします!」
「あ、う、うん」
俺が桜さんの手を取って懇願すると、桜さんは驚いて若干腰が引けていた。
「ああ……そんなどこぞのラブコメみたいな展開があるなんて……彼女がいるって、いいなあ……」
「あうう……ふ、普通だよお」
あ、桜さんがモジモジしてる。カワイイ。
「じゃ、じゃあ、今日の放課後、一緒にしよっか……あ、も、もちろん、凛くんバイトあるから、喫茶店で空き時間に、だけど……」
「う、うん、ぜひ!」
いやあ、桜さんと喫茶店で勉強かあ……………………アレ?
「なんだかいつもと変わらないような……」
「そ、そうかも……」
「ま、いいか。桜さんと一緒にいられるんだし」
「うう……付き合うことになってから、凛くん遠慮がないよお……」
「はは、全部桜さんのおかげだよ」
本当にそうだ。
中学の時に皐月に蔑まれてから自分に自信のカケラもなくした俺に、桜さんを好きになる勇気と自信をくれたのは、他ならぬ桜さんだから。
そんな桜さんと結ばれたんだ。遠慮なんてしてたらもったいない。
俺はこれから、遠慮せずにもっともっと桜さんと楽しく過ごすんだ。
そんな風に桜さんとの会話を楽しみながら登校すると、あっという間に学校に着いてしまった。
うーん、ならいっそ、明日からは遠回りして登校するか?
などと考えながら教室の前まで来ると、「また昼休みね!」と手を振って、桜さんは自分の教室の中へ入って行った。
はあ、最高かよ。
そんな桜さんを見届け、俺も自分の教室に入る。
すると、この一週間になかった違和感が俺の視界に飛び込んできた。
「遼……」
教室の中には、数人のクラスメイトの女子と花崎さんに囲まれる遼の姿があった。
しかも髪型はショートになっており、目を隠すほど長かった髪はバッサリとなくなっていた。
「如月くん、体調を崩してたって聞いてたけど、大丈夫なの?」
「うん、おかげさまで良くなったよ」
「ホント、心配したんだから」
「そうそう!」
「はは、ありがとう」
「如月さん……」
「花崎さんもありがとう。もう大丈夫だよ」
「はい……」
何だコレ。
遼の髪型が替わっただけで、クラスの女子どもの食いつきが半端ない。
いやまあ、元々前髪の裏にはイケメンが隠れてることを知ってる俺としては、この状況も分からんではないが。
それにしても、皐月と付き合ってることを知ってるのに、よくそんなグイグイ行けるなあ。
そう考えると、皐月が彼氏がいるのに浮気することも、普通にあり得るってことか……って、イヤイヤ、やっぱないわー。
そんな様子を席にも着かず立ち尽くしたまま、ジト目で遼達を眺めていた俺の肩を、後ろからツンツンとつつかれた。
振り返ると、桜さんが驚いた表情で同じく遼たちを見ていた。
「ね、ねえ……あれって……」
「うん……」
すると、俺達に気付いたのか、遼は立ち上がり、こちらへと歩いてきた。
「おはよう、凛太郎」
「遼……」
俺は言葉が出なかった。
だってそうだろう?
俺はどんなスタンスでものを言えばいいんだ?
浮気されたことについて、幼馴染として慰めの言葉を掛ければいいのか?
それとも、浮気の事実を教えてしまったことを謝罪すればいいのか?
あるいは、あの日遼とゆず姉に罵倒されたことに文句を言えばいいのか?
駄目だ、目の前がグルグルする。
感情と理性がごちゃ混ぜになって、まともに思考できない。
だが、遼はそんなことはお構いなしに言葉を続ける。
「この前はごめん……僕がどうかしてたよ。言い訳にしかならないけど、あのことのショックが大きすぎて、あんな言い方をしてしまって……」
そう言って、遼は俯く。
「い、いや……その、遼は被害者なんだから仕方ないよ。そ、それよりもういいのか?」
「あ、うん。おかげでこの一週間の間に気持ちも整理できたよ。あ、そうだ」
俺が困惑したまま答えると、遼はもう用はないと言わんばかりに桜さんへと向き直る。
「北条さんもこの前はカッコ悪いところ見せちゃったね。できれば今度、その埋め合わせをさせて……」
「いらない」
桜さんは会話を打ち切るかのように、遼が言い切る前に拒否を示した。
「だけどこのままじゃ僕の気持ちがすまないから……」
「そんなのは君の勝手だよね。ボクの知ったことじゃない」
そう言うと、桜さんは話は終わりとばかりに、視線を逸らした。
「そっか、僕にできることなら何でもするから、いつでも言ってね」
「…………………………」
北条さんは遼の言葉を無視し、無言を貫く。
「はは……あ、そうだ凛太郎、姉さんもこの前のこと謝りたいって言ってるんだ。よければ、今度姉さんに会って話をしてくれると嬉しいんだけど」
「あ、ああ……」
そんなことを言ってニコリ、と微笑む遼に、俺は思わずたじろいだ。
「じゃ」
そして遼は自分の席へと戻って行った。
その姿を眺めている横で、桜さんがポツリと呟く。
「……気持ち悪い」
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