第20話 断罪
あー、カッコ悪い。
せっかくのテーマパークでの初デートだってのに、このタイミングで自分語りして、オマケに桜さんの胸の中で号泣だ。
おかげでクライマックスのパレード、見逃してやんの。
……だけど、俺は今、この場所で救われた。
なのに俺ときたら、それ以上の贅沢を望んでいる。
桜さんの笑顔が見たい。
桜さんとたくさん話がしたい。
桜さんの隣にいたい。
桜さんに触れていたい。
桜さんと、ずっと一緒にいたい。
こんなパッとしない俺だけど、そう伝えても許してくれるかな……?
俺はおずおずと顔を上げる。
抱きしめながら俺の背中をさすってくれた彼女の顔が目の前にある。
「落ち着いた?」
その微笑みを浮かべた顔は、どんな女性よりも綺麗で、俺は心から惹かれていた。
「……うん。ありがとう桜さん、もう大丈夫。それより、俺の所為でせっかくのパレード、見れなかったね。ごめん」
「そうだね。だったらまた一緒に、ここに来よ?」
「……うん」
パレードも終わって人がまばらになる中、お互い見つめ合いながら、沈黙が続く。
「桜さん……明日、全部終わったら、俺に時間くれる?」
「! ……うん」
「ありがとう……」
その後、俺達は無言のまま、手をつないでテーマパークを後にした。
◇
さあ、いよいよ今日だ。
俺は顔を洗い流すと、気合いを入れるために両頬を叩く。
制服に着替え、学校に行く準備をしていると。
——ピコン。
スマホにRINEのメッセージが届いた。
送り主は桜さんだ。
『ゴメン! ちょっと早めに出なきゃいけなくなったから、先に行ってるね!』
メッセージと一緒に、劇画タッチの渋い熊が土下座するスタンプが押されていた。
「そっか、今日は別々か」
俺はすぐに『了解』と返信した。
い、いや、別に元々一人で登校してたんだし、桜さんと一緒じゃなくたって……寂しいなあ。
——ピコン。
またメッセージが届く。
『学校で待ってるね! 早く逢いたいな』
俺は慌てて支度し、家を飛び出した。
学校まで走れば、十五分くらいで着くか?
とにかく走るぞ!
俺は脇目もふらず、一心不乱に全速力で学校に向かう。
脇腹が苦しい。
体育のマラソンでもこんな走ったことないぞ。
「見えた!」
学校の校門を駆け抜け、下駄箱で上履きに履き替えると、一段跳びで階段を登る。
ガラッ!
桜さんの教室の扉を開けると、そこにはカバンを机の上に置く彼女の姿があった。
「え? え!? 凛くん!?」
「ハア……ハア……! お、おはよう……」
「あ、うん、おはよう……って、凛くんも用事か何かあったの?」
「ハア……いや、えーと……」
ようやく息は整ってきたけど、とりあえず桜さんには何て言ったものか……。
「あ、分かった! ボクに逢いたくて慌てて来たんでしょ!」
桜さんが悪戯っぽく笑いながら、俺の顔を覗き込む。
「…………………………正解」
「ふあ!?」
本音をポロッと漏らすと、桜さんは耳まで真っ赤になった。
だったらからかうようなこと、言わなければいいのに。カワイイなあ。
「ハア……二人とも、仲が良いのはいいですが、そろそろ自重していただきたいんですけど」
「え!?
「ふあ!?」
見ると、こめかみを押さえ、呆れた表情で首を左右に振る花崎さんと、恨みがましい視線を送る男子どもと、キャーキャー騒ぐ女子達がいた。
は、恥ずかしい……!
——ピコン。
——ピコン。
その時、スマホにRINEのメッセージがいた。
けど、あれ? 今、二つ音が鳴ったよな?
見ると、桜さんもスマホを取り出していた。
もう一つは桜さんか。
「あ、中原先輩だ」
スマホの画面を見ながら、桜さんが呟く。
俺もスマホを見ると、同じく中原先輩だった。
「……どうやら予定通り釣れたみたいだな」
「……うん。『今日の昼休み、凛くんのクラスで』ってなってるね」
俺達は視線をスマホ画面からお互いへと移し、無言のまま強く頷き合った。
さあ、いよいよ決着だ。
◇
「やっほー、凛くん来たよ!」
昼休みになり、桜さんは笑顔で手を振りながら教室へと入ってきた。
……で、なんで花崎さんがいるんですかね?
「……あなた達が何だか不審でしたから、様子窺いです。何か良からぬことを企んでそうですし」
「……そうですか……」
俺はチョイチョイ、と桜さんを手招きする。
桜さんがこちらに近寄ると、俺は彼女に耳打ちした。
「(……花崎さんに言ってないよね?)」
「(! 当たり前だよ! ボ、ボクも奏音が何考えてるのか分からなくて……)」
「(と、とにかく、もう止められないから、このまま行くしかない!)」
「(う、うん!)」
俺達はチラリ、と花崎さんを見やる。
「……なんですか?」
「「イヤイヤイヤ、ナンニモ?」」
「妙に息ぴったりですね……」
ふう……気をつけよう……。
「失礼、立花くんはいるか?」
……来た。
「うっす。ここです」
俺は先輩に向かって手を挙げると、先輩は笑顔で手を振りこちらへと近寄ってくる。
そしてその後ろには……例のクズがいた。
クラスメイト達は色めき立つ。
先週金曜、あれだけステマしたからな。
特にサッカー部の奴等、顔が真っ青だ。
俺はほんの少し視線をずらす。
そこには、不安の表情を隠せず、口元を押さえている皐月がいた。
「やあ、今日のバイトのことなんだが……」
「それより、後ろの人って誰ですか?」
俺はあえて先輩の言葉を遮り、後ろのクズを見やる。
「誰って? オイ、口の利き方がなってないぞ!」
「なんすかコレ?」
すごむクズを無視し、改めて先輩に尋ねる。
「ああ、クラスを出た時から勝手についてきてな、正直鬱陶しくてかなわないんだ」
「ちょっと待てよ楓、彼氏にそんな言い草……」
「……彼氏? 彼氏と言ったな?」
先輩の空気が変わり、思わずクズが狼狽える。
「半年以上まともに口もきかない者を彼氏とは言わない。目障りだ」
「ハア!? お、お前……」
「なんだ? もっと言って欲しいのか? 私は、去年から浮気相手にうつつを抜かすような奴はいらないと言ってるんだ!」
先輩の啖呵に、そして浮気の事実を知られていることに慄き、クズはヨロヨロと机にもたれ掛かる。
それは、先輩の陰で身体を震わせている皐月も同じだ。
「……気づいていないとでも思っていたのか? ついこの間も、部活が終わった後にお前が二年の後輩の女子と仲睦まじく下校していたことも知っているんだぞ」
先輩が射殺すような視線を向けながら、冷たい声でクズに投げ掛けた。
なのにコイツは……。
「ご、誤解だ! お、俺がお前以外の女なんかに興味がある訳ないだろ!? だ、大体、お前ほどの女、この学校のどこにいるんだよ!」
そんなことを言い放ち、「な? な?」と同意を求めるようにクラスメイト達に視線を向ける。
だけど、クラスのほとんどの奴は軽蔑するような視線を向け、サッカー部の奴等でさえも目を合わそうとすらしない。
そして皐月は、そんなクズに恨みがましい視線を向けていた。
それは、クズに相手にされていないという事実を知ったことによる失望なのか、それとも、中原先輩よりも劣っていると言われたことへの怒りなのか、俺には分からないが……。
「……そういうことだ。隼人、金輪際私に話しかけるな」
先輩は一言告げ、自分の教室へと戻って行った。
クズは呆然としながら、ただその後ろ姿を眺めていた。
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