第13話 遭遇

 昼休みも終わり、教室に戻った俺は、大変な目に遭った。


 五時間目が終わり休み時間になった途端、男連中からは桜さんとのことを根掘り葉掘り聞かれ、そして……。


「凛太郎ったらなんなの? 遼とも連絡が取れない状態で、コッチは心配してるっていうのに、呑気なものね。同じ幼馴染とは思えない」


 皐月の奴、そんな皮肉を吐きに来やがった。

 ブーメランだぞ、それ。

 ま、無視だ無視。


 とにかく、そんな教室にいたくなかった俺は、放課後になったらすぐに桜さんのクラスに向かった。


 入口から教室を覗くと、あ、いたいた。

 教室に入ろうとした瞬間、桜さんが俺に気づいて笑顔で手を振る。


「おーい、凛くん!」


 ちょ!? ここでも!?

 やっぱり男子達は目を見開き、血の涙を流しそうな程口惜しそうに俺を睨んだ。

 お、俺は知らんぞ。


「えへへ、ちょっと待ってね。帰る準備するから」


 ……カワイイからなんでもいいんだけど。


「はあ……随分仲良くなったんですね」

「や、やあ、花崎さん」

「ま、桜も嬉しそうだし、いいんですけど」


 そう言うと、花崎さんは少し苦笑した。


「お待たせ! じゃあ行こ? 奏音、また明日!」

「ええ、ごきげんよう」


 ということで、俺達は教室を出た訳だが。


「とりあえず、サッカー部の部活が終わるまで結構時間があるけど、どうする?」

「そうだねー……って、そういえばバイトは大丈夫なの?」

「ん? ああ、大輔兄には昨日のうちに断っておいたよ」

「そ、そう? その……大丈夫? やめさせられたりとか……」


 桜さんが心配そうな表情で俺を見る。

 こういうところだよね。自分では優しくないなんて言ってるけど、絶対優しいよ。

 とりあえず、桜さんを安心させよう。


「え? そんなことある訳ないじゃん。一応、こう見えても勤務態度は悪くないし、そもそも親戚の店だし、何と言っても客が少ない」


 少しおどけて彼女にそう告げると、ホッとしたのか、安堵の表情を浮かべた。


「そうだ。どうせあと二、三時間は部活終わらないだろうから、喫茶店に行ってみる?」

「ええ!? 休ませてもらってるのに行ったりしたら、サボってるって怒られたりしない?」

「ないない。行こう?」

「そ、それなら……」


 てことで、二人で大輔兄の喫茶店に向かった。


 ◇


「いやあ、よく来てくれたね! さあ、好きな席に座って!」


 店に入るなり、大輔兄が開口一番、全力で桜さんを歓迎した。

 今日は絶対に、大輔兄からのセクハラを防ぐぞ! 桜さんを護るんだ!


 俺がフンス! と意気込んでいると、大輔兄が特大パフェとコーヒーを持ってきてくれた。

 相変わらず桜さんは「ふああ……!」と感動の溜息をもらしている。

 俺はそんな桜さんを、ただニヨニヨと眺めてる。はあ、シアワセ。


「はは、ごゆっくり」


 そう言って、大輔兄はカウンターに戻るかと思いきや、


「(頑張れよ)」


 と、ボソリ、と俺の耳元で呟いた。


 チクショウ、そんなこと分かってるよ。

 凡人の俺は、何倍も努力しないと桜さんには振り向いてもらえないことくらい。


「ホント、美味しいね♪」


 桜さんはゴキゲンな表情でパクパクとパフェを口に運ぶ。


「うん、桜さんが幸せそうで、俺も嬉しいよ」

「ふあ!? も、もう……凛くんどうしたの?」

「あはは」

「むう……」


 少しむくれた桜さんだけど、スプーンの手は休めないんだ。


「……中原先輩にひどいことしちゃうね」


 俺はポツリ、とそう呟いた。

 桜さんもカタ、とスプーンを置く。


「……うん。だけど、昨日も言ったけど、知らないままでいることが幸せなんかじゃないよ。知ってるのに黙ってるほうがもっとひどいよ」

「うん、そうだね……俺もそう思ったから遼に……」


 俺は頭を上げ、桜さんを見つめた。


「桜さん、ありがとう。俺は桜さんがいるから、こうやって過ごせるんだ。本当に、感謝してもしきれないよ」

「あ、あうう……そんな表情でそんなこと言うの、反則だよお……」


 桜さんが頬を染めながら、口元をもにょもにょとしている。


 うん、今回のことが全て終わったら、俺は——桜さんに告白しよう。


 ◇


「サッカー部の片づけも終わったみたいだね」

「ああ」


 俺達は今、校門の前でグラウンドを眺めている。


 サッカー部の練習も終わり、一年生の部員達がグラウンド整備をしていた。

 もう少しすれば、中原先輩がやって来るだろう。


 すると、先に帰り支度を終えた三年生達が部室から出てきた。

 その中に——例の大石先輩がいた。


「……反吐が出る」

「だね……」


 その大石先輩はほかの部員達から別れると、一人校舎の中へ入って行った。

 一体……。


 おっと、そんなことより中原先輩だ。

 先輩は、と……ああ、まだ後片付けしてた。

 まだしばらく掛かりそうだな。


「一年生も部室に引き上げたね」

「うん……って、まずい!? 隠れよう!」


 俺は慌てて桜さんの手を引いて、校門の近くにある木の影に隠れた。


「え、ど、どうしたの!?」

「静かに!」

「あ……」


 俺は桜さんを引き寄せ、見えないようにしてから息を潜めた。


 すると、大石先輩と、あろうことか皐月のバカが仲良く校門をくぐる。


「そういやさあ、ええと、如月だっけ? まだ休んでるんだって?」

「う、うん……RINE送っても返事もなくて……」

「ひょっとしてバレたとか?」

「ちょ!? 冗談でもやめてよ!」

「はは、悪い悪い。だけどなに? 別れる気はないの? だって、満足してないんだろ?」

「そ、それとこれとは別! 私が好きなのは先輩じゃなくて遼なんだから!」

「なのに、今もこうやって俺と一緒にいるんだよなあ。しかも、この後もいつも通り俺の家にしけ込んで、よろしくヤル訳だから」

「……………………」


 何コイツ等。


 学校の中でも会ってんの? バカなの?

 しかも、中原先輩だって学校にいるんだぞ?

 そんなことも分かんねーくらいお花畑なの?


 ああ、本当に気持ち悪い。

 吐きそうだ。


 すると、突然桜さんが俺の身体を抱きしめた。

 見ると、桜さんはにっこり微笑んだ。まるで、大丈夫だよ、と言わんばかりに。


 ああ……桜さんは本当に……。


 やがて二人が消えたのを確認すると、俺達は木の陰から出た。


 すると突然、ポン、と肩を叩かれた。


「……君達の話って、その……今の件、かな……」


 振り返ると、そこには悲痛な表情を浮かべた、中原先輩がいた。

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