第10話 判明

「えーと、ね、立花くんの家なんてどうかな、って……」


 うえ!? お、俺ん家!?

 い、いや、俺もそれは頭によぎったけど、絶対軽蔑の目で見られると思ってあえて言わなかったのに!


 だ、だけど、北条さんが俺ん家来たいっていうんならしょうがないよな、うん。


「え、ええと、いい、けど」

「ホント?」

「う、うん」


 ヤベエ、北条さんが目を超キラキラさせてる。


「じゃ、じゃあ俺ん家コッチだから……」


 そう言って、俺は彼女を家まで案内する。

 北条さんは俺の隣を歩き、ご機嫌な様子で他愛のない話をした。


 新しくスイーツのお店ができたとか、意外とインドア派で週末は家でゴロゴロしてることが多いとか、そろそろ夏用の服を買わなきゃいけないとか……。

 楽しそうに話す彼女を見て、俺もつい楽しくなってしまう。


 俺、自分がこんなにチョロインだとは思ってもみなかったわ。


 そんな彼女との会話で時間があっという間に過ぎ、俺ん家の近くまできた。


 そして、道の角に差し掛かった時、俺の足が止まった。


「? どうしたの?」

「あ、ああいや、ごめん、道、こっちだった」

「えー、なにそれ。自分の家の帰り道間違えちゃったの?」

「はは、悪い」


 俺は頭を掻きながら、少し遠回りの道を選んで家へと帰った。


「ここが俺の家だよ。ま、変哲のない普通の家だけど」

「ここかあ……!」


 北条さんはなぜだか嬉しそうに俺の家を見上げる。


「さあ、入って」

「おじゃましまーす」


 玄関に招き入れ、俺と彼女は靴を脱いで家に上がった。

 その時。


「お兄おかえり……って、ええ!?」


 ……めんどくさい奴に見つかっちまった。


「お、お、お兄……ま、まさかカノ……モガッ!?」

「ち、違う! お、同じ学校の北条さんだよ!」


 妹の理香が余計なことを口走りそうになったので慌てて口を塞ぎ、早口で彼女を紹介した


「あ、えと、立花く……い、いや、凛太郎くんの友達の、北条桜です……」


 北条さんは顔を真っ赤にして、たどたどしく自己紹介した。


「もう! 息苦しいよお兄! 初めまして、妹の理香です! いつもお兄がお世話になってます!」

「こ、こちらこそ……」


 理香は元気よく挨拶すると、俺の傍に近寄り、ツンツンと肘打ちをしてきた。


「(ねえねえ、桜さんてすごくカワイイんだけど! やるねお兄!)」

「(カワイイのには激しく同意するが、俺はなにもやってない)」

「(えー、ホントに?)

「(おう)」


 などと小声でやり取りしてると、北条さんはジト目でこちらを見ていた。


「ごめんごめん、じゃあ俺の部屋に行こうか」

「あ、うん」


 俺達は二階へと上がり、部屋へ入ろうとして……念のため確認しとくか。


「ご、ごめん北条さん、ちょっと部屋が散らかってるから、ちょっとだけ待ってて!」

「え? う、うん……」


 俺は急いで部屋の中に入り、パソコンと本棚を確認する。

 よ、よし、大丈夫。見られて困るものは無事隠してある。


「ごめん、お待たせ」

「失礼しまーす」


 北条さんは部屋に入ると、俺の部屋をキョロキョロと見回した。


「へえー、これが男の子の部屋かあ」

「う、うん。北条さんは男の部屋って入ったことないの?」

「あ、ある訳ないよ! お、男の人と付き合ったりしたこともないし……」


 北条さんが耳まで赤くしながら、全力で否定した。

 だけどそうか、北条さんは彼氏いないのか。


「ご、ごめん。ほ、ほら、男の兄弟とかいたりするかもしれないしさ」

「ああ、そっか。でも、ボクお姉ちゃんが一人いるだけだからね」

「へえー、ってごめん。適当に座って」

「うん」


 そう言うと、北条さんはベッドの上にポスン、と座った。

 よし、シーツは当分洗わないようにしよう。


「そ、そうだ、俺、何か飲み物取って来るよ」

「べ、別に気を使わなくてもいいよ」

「いいからいいから」


 俺は部屋を出て、一階のリビングに向かうと、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、コップに注いだ。


「ねえねえお兄、桜さんとどこで知り合ったの?」


 ソファーでゴロゴロしてた理香が、ニヤニヤしながら近寄ってくると、そんなこと聞いてきた。


「どこでもなにも、学校に決まってんだろ」

「そりゃそうか……ま、頑張って!」

「な、何をだよ」

「ウッシッシ」


 我が妹ながら下品な笑い方を……。


 俺は妹を無視し、ジュースの入ったコップをお盆にのせ、急いで部屋へと戻った。


 すると。


「ふあ!?」


 ……北条さんがベッドの上でうつ伏せになって顔をうずめていた。


「え、ええと北条さん、とりあえずオレンジジュース……」

「あああ、ありがとう!」


 北条さんは上ずった声で返事すると、コップを受け取り、ジュースを一気に飲み干した。

 と、とにかく、今見たことは触れないほうがよさそうだ。


「そ、それで、これからどうするかなんだけど」

「え、あ、そそそうだね。とにかく、如月くんには期待できないから、もう勝手に立ち直ってもらうしかないんだけど、せめて海野さんはなんとかしたいよね」

「そうだな……」


 一応、学校では遼を心配する素振りを見せてるけど、浮気自体は続けてるんだろうなあ。


「「うーん……」」


 お互い頭を捻りながら考えるけど、いいアイデアが思いつかない。

 さて、どうしようか……。


「とりあえず、これからすることとしては、海野さんと浮気相手を引き離すことと、その上で如月くんと海野さんを別れさせること、かなあ」

「ちょっと待ってくれ。その、遼と皐月を別れさせる件については、遼がどうしたいかにもよるからさ」

「ええー、立花くんまだ如月くんのこと庇うの? こう言ったらなんだけど、如月くんにそんな価値ないよ?」


 おおう、辛辣。


「いや、あんなことになったし、俺も以前みたいになんとかしてやりたいって気持ちは薄いんだけど、それでも、それをどうするかは本人の問題だし……」


 そうだよなあ、アイツ、あんなに皐月のこと好きだったからなあ。

 関係をどうするかは、アイツ自身に考えさせてやりたい。いや、そうすべきだろう。

 そうじゃないと、アイツも前に進めないだろうし……。


「(……相変わらずお人好しなんだから……変わらないなあ)」

「? 何か言った?」

「ううん、別に」


 ん?


「分かったよ。じゃあまずは海野さんと浮気相手を引き離すことを考えよう。そういえば浮気相手ってどんな人なの?」

「あ、ああ。俺の知らない奴なんだけど……そういや画像があるな」


 俺はポケットからスマホを取り出し、浮気現場の画像を表示させる。


「これなんだけど……」


その写真を見た時、北条さんの顔色が変わった。


「これ……三年の大石先輩だ」

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