第6話 会議

「そ、それで、よかったら放課後にでも、これからどうするか作戦会議したほうがいいと思うんだけど……」


 北条さんが上目遣いでおずおずと提案する。

 いや、そんな遠慮するような態度取らなくても……。


「ああ、そうだね。だったら……って、ああー……シフト組んでた……」


 そうだった、今日は喫茶店のバイトに入る日だった。

 昨日も急に休ませてもらったから、今日はちゃんと行かないとなあ……。


 うーん……お、そうだ。


「実は今日はバイトが入ってて、行かなきゃいけないんだけど……」

「あ……そ、そっか、それじゃ仕方ない……って、体調悪いんだから無理しちゃ駄目だよ!」

「ああいや、体調に関しては、北条さんが話を聞いてくれたおかげで、大分楽になってるから」

「あうう……」

「そ、それでなんだけど……よかったら、俺のバイト先で作戦会議……する?」


 今度は俺が上目遣いでおずおずと提案してみた。

 傍から見たら気持ち悪いって言われそう。


「え!? いいの!?」


 予想外に北条さんの食いつきがよかった。


「あ、ああ、平日の夕方は客もあまりいないし、従兄が親の遺産で受け継いで経営してる店だから、大丈夫だよ」

「え、ええと、それじゃ、よろしくお願いします!」

「こちらこそ!」


 ということで、放課後になったら一緒に店に向かうことになった。


 ◇


 放課後になり、俺は北条さんのクラスに顔を出す。


 えーと……お、いたいた。

 花崎さんと二人で話をしているようだ。

 あれ? 二人とも、なんか俺のほう見て話してない?


 まあいいや。それより、花崎さんにも謝っとかないとなあ……。

 俺は二人の元に歩み寄った。


「やあ北条さん。それと、花崎さん、その、今日の朝はごめん……」

「え? あ、ええ、別に気にしてませんから……」


 俺が謝ったのが意外だったのか、花崎さんは思わずキョトンとしていた。


「北条さん、それじゃ行こうか」

「うん!」

「ちょっと待って下さい」


 まさかの花崎さんに呼び止められてしまった。


「立花さん……桜を泣かしたら、承知しませんからね?」

「は?」

「ちょっ!? 奏音!」


 なんで俺が北条さんを泣かせるんだよ。

 そんなことしたら、俺に天罰が下るわ。


「た、立花くん! 早く行こう!」


 北条さんが俺の背中を押し、俺達は慌てて教室を出た。


 ◇


 靴を履き替え、学校を出ると俺達はバイト先の喫茶店に向かう。


「それで、立花くんのバイト先の喫茶店って、どんな感じなの?」

「んー、昔からある喫茶店で、レトロっていうより、古いって表現したほうが正しい感じ。まあ、先代からの常連で成り立ってる店だね。今は伯母さんが引退して、息子の大輔兄がきりもりしてるよ」

「へえー。で、立花くんはどんな仕事してるの?」

「俺? 俺はウエイター兼皿洗いだよ」

「ウエイターって、学校の制服で?」

「いや、着替えるよ」

「ふーん……」


 なんだかやけに食いつくな。

 あれかな、バイトしたいのかな。


「北条さん、バイトに興味あるの?」

「ふあ!? い、いや、バイトに興味というか……(ゴニョゴニョ)」

「?」


 ま、いいか。


「ほら、着いたよ」

「へえー、ここが立花くんのバイト先かー」


 店の外観をまじまじと見る北条さんを促し、店の中へと入る。


「いらっしゃ……って凛太郎か。通用口から入れよ」

「いや、お客さんというか……」

「! おお!?」

「失礼します」


 北条さんを見て驚いた大輔兄が、ニヤニヤしながら俺に肘打ちをする。


「おいおい凛太郎! 彼女か?」

「残念だけど違う。同じ学校の北条さん」

「北条桜といいます。いつも立花くんにはお世話になってます」


 そう挨拶すると、彼女は丁寧にお辞儀をした。


「いやいやご丁寧にどうも。従兄の“須田“です」

「あれ? ”立花”じゃ……」

「ああ、母方の従兄だから」

「あ、なるほど」


 さて、挨拶も終わったことだし、俺も準備するかな。


「それじゃ俺は着替えてくるから、北条さんは適当に座ってて」

「あ、うん」


 そう言い残し、俺は奥の控室に向かった。

 待たせると悪いし、早く着替えないと……。


 ロッカーに掛けてある店の制服に手早く着替え、店に戻ると、なぜか北条さんが真っ赤な顔で俯いていた。


「……大輔兄、まさかセクハラなんてしてないよね……?」

「してないしてない!」


 大輔兄は大袈裟に否定するけど、その反応が怪しい。


「北条さん大丈夫だった?」

「あう……う、うん……」


 よし、伯母さんに大輔兄の所業を密告しよう。客にセクハラしたって。


「よし! 凛太郎、お前の今日の業務は、桜ちゃんの接待だ。粗相のないようにしろよ?」


 なに勝手に北条さんを下の名前で呼んでるの?

 よし、伯母さんには話を盛って密告しよう。


「ええと、大輔兄の業務命令なので、気兼ねなく作戦会議しようか」

「う、うん」


 俺は彼女の正面に座る。


「それで、北条さんが提案してくれた通りにするための条件として、一つは遼のこと好きになってくれる人を見つけること、もう一つは、遼が立ち直って、次の恋を見つけること、かな」

「うん、そうだね。そうすると、如月くんのこと好きになってくれる人なんて、うちの奏音くらいのモノ好きじゃないといないから、一番ハードルが高そう……」

「ん? そうでもないんじゃない?」

「どういうこと?」

「いや、なんだかんだで、アイツ“隠しキャラ”だし」

「???」


 あ、北条さんには通じないか。

 ていうか、“隠しキャラ”なんて言ってるの、俺くらいなモンだしなあ。


「いやね、アイツ顔が隠れるくらい前髪が長いし、結構人見知りするからあんまり知られてないけど、アレで無駄に顔面偏差値高いんだよ。オマケに成績も学年トップクラスだし、かなりのハイスペックなんだよね」

「へ、へえー」

「だから、アイツの前髪を切ったら、結構女子は食いつくんじゃないかな」


 まあ、全て平均値の俺からしたら、血の涙を流したいくらいなんだけど。


「……そんな簡単になびくような女の子、軽蔑したいくらいだけど、悲しいことに友達の一人がそうだから、釈然としない」

「まあまあ」


 しかし、遼も本当に嫌われたモンだな。

 なんだって北条さんはそこまで遼を嫌うのかな。

 まあ、ウマが合わないんだろうな。


「それより、遼を立ち直らせるほうが厄介かもしれない。昨日の様子だと、今日明日でってのはあり得ないよ」

「そっか……」

「といっても、何とかしないことには始まらないし、早く立ち直って欲しいからな……」


 うーん、どうやったら遼が立ち直るかなんだけど、なあ……。

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