第4話 心配

 結局昨日も寝られなかった。チクショウ。


 しかし昨日は最悪だった。

 遼に殴られるわ、ゆず姉には軽蔑されるわ。

 一体俺が何したっていうんだよ……。


 ……まあいいや。

 それより、遼の奴は大丈夫だろうか。

 昨日は自殺でもしそうな勢いだったし。

 アイツは皐月のことが本当に好きだったからな……。


 とりあえず、遼にRINEを入れてみる。

 まあ、多分返信はないだろうけど。


 さて、学校行くか……。


 ◇


 教室に入り、遼がいないか探すが……来てる訳ねえか。


 俺は無言で席に座り、机に突っ伏した。

 するとそこへ、一番来なくていい奴が来やがった。


「ねえ、凛太郎……遼に何かあった? RINE送っても返事ないし、心ぱ「黙れ」」


 は?

 今なんて言おうとした?

 心配だと? どのツラ下げて言ってんだコイツは!


「な!? そんな言い方……」

「もういいから、消えろよお前」

「あ……う……」


 普段と違う空気を感じたのか、皐月は言葉をつまらせ、そのまま自分の席に戻っていった。


 引き続き俺は突っ伏すが、俺に安寧はないらしい。

 ……今度はいつもの二人組かよ。


「……立花さん、ちょっとよろしいですか?」

「……………………………」


 花崎さんに声を掛けられるが、俺はあえて返事もせず、二人から顔を背けた。


「はあ……その、如月さんのことなんですけど……」

「知らね」


 花崎さんが言い切る前に、俺は素っ気なく返事した。


「っ! ちょっ「奏音待って」」


 激昂しそうになった花崎さんを、北条さんが止めた。


「とりあえず、今日は如月くんもいないみたいだし、大人しく教室に戻ろ?」

「……分かりました」


 北条さんに諭され、二人は自分達の教室に……戻ったのは花崎さんだけで、北条さんはなぜか残ったままだった。


「立花くん……何かあったの?」

「………………………………」

「昨日から様子がおかしいよ? ……その、ボクじゃ頼りないかもしれないけど、話くらい聞けるから……」


 アレ? 俺の心配してくれてるの?

 くそう、普段俺が二人の邪魔したら、これでもかってくらい絡んでくるくせに、これじゃ邪険にすることもできねー。


 どうしたものかと迷ってる時、予鈴が鳴った。


「……また、昼休みに来るね?」


 そう言い残し、北条さんは自分の教室に戻った。


 俺はこの予鈴に助かったと思いつつも、彼女の言い残した言葉に、ほんの少し、期待している自分がいた。


 ◇


 四時間目の授業が終わり、昼休み。


 北条さんは宣言通り俺の元にやってきた。

 ご丁寧に弁当を片手に。昼休み時間一杯拘束する気だな。


 逃げようか迷ったんだが、来るって言った彼女を無視するのも気が引けたので、結局大人しく教室で待つことにしたんだけど……まさかチャイムと同時に教室に入ってくるとは思わなかった。


 これじゃ、どちらにしても逃げられなかったな……。


「立花くん、一緒にご飯食べよ?」


 カワイイ女子からそんなことを言われたら、いつもだったら喜んで飛びつくんだけど、さすがに今日はな……。

 かといって、北条さんは話を聞く気満々で、俺を逃す気はないみたいだし。


 ……仕方ない、あきらめるか。


「はあ……分かったよ」


 俺はカバンからゴソゴソとコンビニ袋を取り出し、席を立った。


「で、どこで食べるの?」

「じゃあ屋上に抜ける階段の踊り場にしようよ。あそこだったら人も来ないし」


 俺に気を遣ってくれた彼女の提案ではあるが、あそこ、埃っぽいし、昼飯食べるには向いてないんじゃないかなあ。

 ……代案もないし、まあいいか。


 俺は無言で頷くと、彼女は「行こ」と言って、一緒に踊り場へと向かった。


「そういえば、立花くんは弁当じゃないの?」


 北条さんが俺のコンビニ袋をしげしげと見つめ、そんなことを聞いて来た。


「ああ、俺ん家は両親共働きだから、あまり弁当作ってくれる余裕はないよ。だから、専ら近所のコンビニの焼きそばパンとメロンパン」

「へえー」


 そういえば、いつもは遼がらみでしか会話したことなかったから、北条さんとこうやって他愛のない会話するのって、なんだか新鮮だな。


 だけど、こんな会話程度でも、俺の心が幾分か軽くなった。


 北条さんには感謝かな。

 その代わり、朝のことで罪悪感が芽生えたけど。

 だってあれ、完全に八つ当たりだもんな……。


「ああそうだ、その……朝はゴメンな。花崎さんも怒ってた、よな……?」

「え? ああうん、気にしなくていいよ。その代わり、その、立花くんに何があったのか、話してくれれば……」


 俺が急に謝罪したことで、思わずキョトンとした彼女だけど、すぐに笑って許してくれた……条件付きだけど。


 しかし、俺の様子に気付いただけじゃなくて、こんなに親身になってくれるなんて、北条さんは優しいな。普通だったら放っとかれるよなあ。


 ……彼女になら、言ってもいいかな。そんな口が軽いようにも見えないし……ってあれ、なんで俺、絆されてるの?


 などと考えていたら、踊り場へと到着した。

 うーん……やっぱり埃っぽいな。


「じゃあ座ろっか」


 そう言って、彼女は床にハンカチを敷き、その上に座った。

 俺もそんな彼女を真似して、中身を取り出したコンビニ袋を床に敷いた。


 北条さんが弁当箱を開けると、ふむふむ、卵焼きにほうれん草のお浸しに野菜の煮物かあ。

 和食だなあ……美味そう。


「えーと……ちょっと食べる?」

「え? いいの?」

「……ケチつけないなら」


 ということでお許しもいただいたので、北条さんにお弁当の蓋に少し取り分けてもらった。


 箸もないので手づかみで口に運ぶ。


「……美味い」

「本当?」

「いや、これヤベエ、何これガチで美味いんだけど。何? 北条さんのお母さん、料理得意なの?」


 元々少ししかなかったのもあり、俺はあっという間に平らげ、彼女に蓋を返そうとして……北条さんは顔を真っ赤にして俯いていた。

 あれ? 俺、何かやらかした!?


「……………………ボク」

「? ハイ?」

「このお弁当、ボクが作ったの……」


 何ですと!?


「す、凄い美味かったよ! いやホント、料理もできるって凄いな!」

「あ、あうう……」


 貧困なボキャブラリーながら、とにかく率直な気持ちを彼女に伝えると、北条さんはとうとう耳まで真っ赤になって縮こまってしまった。


 そんな北条さんの態度に急に気まずくなった俺達は、その後無言のまま昼食を終えた。


 そして。


「……立花くん、話してくれる?」

「……ああ」

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