第3話 告白

 俺は放課後になると、遼に近所の公園に来るよう、RINEで呼び出した。


 遼は「皐月と帰る約束だったのに……」とぶつぶつ言っていたが、俺の真剣な空気を感じたのか、渋々ながらも了承した。

 その後、大輔兄に今日のバイトを休ませてもらう旨連絡し、公園へと向かった。


 そして俺は今、昨日と同じベンチに座りながら、遼が来るのを待っている。


「はあ……まず、どう切り出すかな……」


 うん、どう控え目に言おうとしても、その後の修羅場しか想像できない。

 それに、あれだけ皐月のことが好きだった遼のことだ。下手をしたら自殺しかねない。


 チクショウ、どうすりゃいいんだよ!


「ゴメン、遅くなっちゃった」


 俺の考えもまとまらないうちに、遼が来てしまった。呼びつけておいてなんだけど。


「あ、ああ、悪いな。と、とりあえず、ここ座れよ」


 遼に俺の隣に座るよう促すと、遼は「ヨイショ」と言って座った。


「それで、話って? もちろん、大事な話なんだよね?」


 遼は不安半分、興味半分といった感じで、俺に話すよう視線で訴える。


「……なあ、お前、昨日は皐月の奴とデートの予定だったんだよな……?」

「え? うん、そうだよ? まあ、皐月の具合が悪いから、結局取り止めになったんだけどね」

「そうか……」


 くそう、胃がキリキリ痛い。

 言え、言うんだ俺!


「……実はそれ、嘘だったら……どうする?」

「え? 何? 言ってる意味が分からないんだけど」

「……言ったまんまの意味だ」


 俺の言葉に、遼は戸惑いの表情を浮かべる。

 だよなあ、そうなるよなあ。


「あのさ、俺、見たんだよ……昨日バイトの帰りに……」


 駄目だ。

 まともに遼の顔が見れない。


「見たって……何を……?」


 ……いよいよ、か。


「……………………皐月が、他の男とキスしてたところ」


 ——ガンッ!


 突然、右頬に衝撃が走り、俺はベンチから転げ落ちた。


「何だよ! そんなくだらない嘘を言うために僕を呼び出したのか!」


 遼はこれまで見たことのない怒りの表情で、俺を見下ろしていた。


「俺だって……俺だってこんなこと言いたくねえし、知りたくもなかったよ! だけどな! お前があのバカに騙されたまま、見て見ぬ振りもできねえんだよ!」

「ハッ! まだそんなこと言うのか! 僕の彼女で、しかも幼馴染の悪口を言うなんて、もう凛太郎とは絶交だね!」


 くそう……予想はしてたけど、全然俺の話を信用しない。


 アレ……見せなきゃいけないのかよ……。


「……これ見ろよ……」


 俺はポケットからスマホを取り出し、昨日撮影した例の画像を遼に見せる。


「………………………………………え?」


 そこには当然、皐月と男が抱き合ってキスしている画像が映し出されていた。


「……彼氏で幼馴染のお前なら……誰か分かる、よな」


 遼は暫く画像を凝視した後、呆然としながら地面にへたり込む。

 そして、その両目から、ポロポロと涙が溢れ出していた。


「う、嘘だあ……」

「……………………」


 遼は蹲り、声にならない声を上げて号泣した。

 ……こんなの、何も声掛けられねえよ。


 それから一時間は経っただろうか。

 とりあえずは泣き止んだみたいだけど、遼の奴、今度はピクリとも動かなくなった。


「……遼?」


 俺は傍に寄り、遼の肩を揺すった。だけど、やはり無反応だ。

 仕方なく、俺は遼の肩をつかみ、身体を持ち上げた。


「っ!?」


 遼の瞳からは生気がなく、ただぼんやりと何もないところを見つめている。

 身体も力が入らないのか、俺が支えていないと、すぐに倒れてしまいそうだった。


「……遼、帰るぞ」


 俺は遼を肩で担ぎ、遼の家へゆっくりと向かった。


 ◇


「遼、着いたぞ」


 あれから三十分掛けて遼の家に到着した。

 相変わらず遼に反応はない。

 仕方ないので、俺はインターホンを押した。


『はい』


 インターホン越しに声が聞こえた。

 出てくれたのは、ゆず姉……遼のお姉さんだった。


「ごめんゆず姉、俺、凛太郎だよ」


 すると、ガチャ、と玄関の扉が開き、ゆず姉が顔を出した。


「凛ちゃんどうしたの……って、遼!?」


 様子のおかしい遼に気付き、ゆず姉が慌てて駆け寄ってきた。


「ね、ねえ!? 一体何があったの!?」

「……………………」

「黙ってちゃ分からないよ!」


 不安そうに遼を見ながら、ゆず姉は俺を詰問する。

 だけどそんなこと、俺の口から言うのは違うよな。

 言っていいのは、遼本人だけだ。


「ごめん、俺からは言えない……ただ、今日は遼に付き添ってて欲しいんだ。そうじゃないと……」

「……納得いかないけど、とりあえずは分かった。だけど、凛ちゃんは遼の親友だと思ってたのに、幻滅したよ」


 俺から遼を受け取ると、ゆず姉は軽蔑の眼差しで俺を睨んだ。


 ……じゃあ俺はどうしたら良かったんだよ!

 そう怒鳴りたかったけど、結局俺は何も言えなかった。


「……うっす」


 俺は走ってその場を立ち去った。


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