第32話 「ゴキブリ以下の下等動物」を論理的分析 

 ゴキブリ以下の下等動物


 これを気に入らん奴に向けたら、そりゃあ、相手は怒るか、怒るの通り越してあきれるよな。


 さて、この表現を、論理的分析にかけてみましょう。


 まず、このようなことを言われる人物がいるということ。とりあえず、そいつは人間の姿格好をした人物であるという前提で、参ります(ゴキブリに向ってわめいてもしょうがなかろう~苦笑)。

 ということは、この表現の主語はその人物ということで、「話者」とします。


 Xは、ゴキブリ以下の下等動物である。


 こういう命題が成立します。


 さて、このXは、話者にとって、ゴキブリとどういう位置関係に置いているかを分析してみましょう。

 なんといってもポイントは、「以下」。

 以下ということは、話者の意識ではもちろん、Xはゴキブリより下に位置する下等な野郎というところであることは容易に想像がつくでしょう。


 だが、本当に「下」と断言できる表現なのか?

 そのポイントは、「以下」という言葉の機能にある。

 「以下」ということは、「同値」を含む概念です。

 ということは、なんと、


 X = ゴキブリ (=下等動物)


 という公式が、成立することになりましょう。そしてこれに派生する等式といいますか、個々の公式をまとめてみますと、


 X    = 下等動物

 ゴキブリ = 下等動物

 よって、 X = ゴキブリ = 下等動物


 という一連の公式ができるということになります。

 かくして、ゴキブリは下等動物というわけね。Xなる人物は、人間の姿格好をした下等動物というわけです。

 なおこれは、「以下」という言葉の「同値」の成立と同時に成り立つ公式でして、


 X < ゴキブリ


という公式が成り立つ可能性は、もちろんあります。ただし、


 X > ゴキブリ


という公式は、この例文からは間違いなく成立しません。

 そういうわけでして、とりあえず、Xなる「ヤカラ?!」を下等動物として思いっきりディスれたから少しは気分もよかろうモノかもしれんけど、それなら、


 Xはゴキブリ(と同等の下等動物)である。


 でもええんとちゃう?

 それでも気が済まないから、「以下」という言葉を持ち出したのだろうけどさ。


 さて、この言葉を聞いたある大先輩は、こんなことをおっしゃいました。


「おいおい、そんなXごときをよりによって生命界の大先輩であるところのゴキブリ様と同レベルにするとは、ゴキブリに失礼だろうが。「以下」にはイコールも含まれとるからな。ゴキブリさんが怒るで。言うんなら、「劣る」とか「未満」とか、そういう言葉を使わんかいな」


 とのことでした。


 そこで最後に、その手の言葉を使って表現しなおしてみよう。


 Xは、ゴキブリ未満の下等動物である。

 Xは、ゴキブリに劣る下等動物である。


 これなら確かに、ゴキブリよりXの方が下となり、同値(同格)の可能性は消えますね。もう一つ言うと、こうすることで、

 ゴキブリ = 下等動物

という公式が、成立しなくなります。Xは確かに下等動物かもしれないが、ゴキブリは一体その「下等動物」の範囲にいるのかというのは、これで曖昧となるからね。

 とりあえずこれで、ゴキブリ様のお怒りを買わずに済むとは思われるが、これに対しては、

「ゴキブリ様にしても、そんなX風情の低レベルのための引合いに出されて、いい迷惑だろう」

という視点が成立するわけでね、やっぱり、ゴキブリ様にも失礼ということになりそうですな。


 いずれにせよ、引合いに出されるXさんは、かなわんでしょうな。

 というオチで、節分じゃなくて拙文は終了です。

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