第10話 駄文・それまで!?

 戦時中の「敵性語排除」は、良くも悪くも、その時だけでなく、その後の社会を変えた。

 

 野球というスポーツのエピソードは、確かに有名であるばかりか、この政策の無駄ぶりをあざ笑うかのようでさえある。

 「よし1本」

 「駄目3本」

 「よし3本・打者それまで!」

 これらはさすがに、やりすぎだ。よく引き合いに出されるけど。

 ただ「打者それまで」は、場合によっては使えよう、一種のギャグ的にね。

 ご存知の通り、こんな言葉が戦後残ったわけもないことは言うまでもないでしょう。進駐軍の中核がアメリカ軍だったからとか、そういう問題抜きにしても。


 一方、鉄道の現場では、こんなことに。

 それまで英語だった表現を、仕方なくか、あるいは、この際いっそと思ったか、こんなふうに日本語に変えた。

 その一例。


 「発車オーライ」を「出発進行」に。

 

 結果は、どうだったかというと・・・?


 こちらのほうがよほどしっくりくるのか、戦後もそのまま使えるものは日本語を使うようになった。

              (阿川弘之・「蒸気機関車」平凡社 1975年より)


 大昔の東京のバスガールでもあるまいし、今どき「発車オーライ」なんて、言わないね。それどころじゃなかろう。

 「出発進行」!

 今や、単なる鉄道用語にとどまらず、出発時の代名詞にさえなっておりますがな。


 何でも日本語も確かに問題だが、何でも英語や他の外国語というのも、やっぱり問題でしょうよ。

 いちいち例は挙げませんけど、特に専門用語系のものは、漢語であれ欧米諸語であれ、賢さを通り越して「小賢しさ」さえ感じさせてしまうものです。英語はまだいいが、ドイツ語とかフランス語あたりを使いだすと、その傾向に拍車がかかるように思うのは、私の気のせいかどうかはわからんけどね。

 いずれにせよ、そういう言葉は、言っている本人は賢くなったつもりにでもなっているだけに、余計に性質(たち)が悪いときておりますがな。

 いやはや・・・。


 (FACEBOOK・本人 2020年3月25日書込を大幅加筆修正)

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