第9話 偉大なる風刺家にして喜劇役者に捧ぐ

 昨日朝10時ごろ、お手伝いしている会社(その会社がどんな会社かは、ここでは述べないでおきます)で、経理担当の若い男性社員から突如、志村けんさんが亡くなられたと伝えられた。


 え?!

 

 思わず、声が上ずった。かねて、あの疫病で闘病されていることは聞いていたが、まさか、死を迎えるなんてことはなかろうと思っていた。あの人、まだ70歳で、うちの両親より幾分若い人のはずだ。そんなの、嘘であって欲しいと思いつつ、その会社のパソコンで検索サイトを見た。

 私用ででネット検索をするな! とか、そういう野暮な指摘は、勘弁してね。

 とにかく、検索をかけた。記事は、難なく見つかった。


 確かに、本当だった。


 昼に仕事場から戻り、自宅で自分の仕事をした。酒飲みだけど、昼間から飲む日は、そうあるわけじゃないからね。一通り自分自身の仕事を終わらせた後、銭湯に入って立ち飲みに行った。

 このたび転勤で名古屋に帰る顔見知りの男性と、その同僚の女性が来られていた。

 店のおばちゃんと、他のお客さんと、話はずっと、志村けんさんがらみだった。

 その話の個々の内容については、ここで詳しくは言わない。

 ただ、私は、「カラスの勝手でしょ」については、20世紀何本かの指に入る風刺であるとだけは、申し上げた。

 その店のおばちゃんは、私の母親より少し年長の方。昔のPTAのおばちゃんみたいな人だと、言っておきましょう。ただし、ヒステリックに否定するような人ではなく、信念を持って、子どもたちにテレビで流れる志村さんのコントなどを見せなかった人だった。

 だからこそ私は、信念を持って、あの替え歌を「世紀の風刺」であると、申し上げたのだ。


 その後、行きつけの居酒屋に行った。意外と、お客さんが入っていた。

 カウンターの人たちが、やっぱり、志村けんさんの話をしていた。

 私は黙って、プリキュアやキャンディーズ、それから、松田聖子などの曲をタブレットで聴きつつ、いつものように、ひとりで酒を飲んでいた。

 帰り際、会計を済ませて立ち上がって、思うところあって、一言。


 それでは、最後に一言。

 志村、後ろ!

 

 私はこのセリフ、今まで人前でも独り言でも、言ったことがなかった。

 でも、言わずには、おれなかった。

 カウンターに並んだ連れの数人の男女、それに、テーブル席の二人のサラリーマン、 そして、その店の大将。みんな、私に振り向いた。

 期せずして、拍手が、沸き起こった。

 皆さんの温かい拍手で送られ、私は、行きつけの居酒屋を去った。もう一度戻って、飲みたい気分をこらえ、私は帰り道に就いた。寄り道は、一切しなかった。

 酒なら、帰ればまだ買い置きが、あるから。


 自宅に帰って、さらに、一眠りして目覚めてひと仕事し始めた今も、なぜか、喪失感に酔ったままだ。

 20世紀を代表する喜劇役者にして偉大なる社会風刺家に、乾杯!

 志村けんさん、ありがとう!

      (FACEBOOK・本人名義 2020.03.31書込を加筆)

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