第4話 緩慢な暴飲暴食
1
9月X日。丸×クリニックに行く。
検尿の結果、血糖値がいささか上がり気味。あれだけ酒を飲んでいるのに、そちらは、さして悪くなかった。だけどこのひと夏の間に、悪くなっちゃったようだ。
思い当たる節は、なくもない。この2か月、毎日ビールを飲むばかりか、食べるものと言えば、夜は寿司やら天ぷらやら、朝は週に何回もラーメン、しかも大盛り。特に用事のない日には、朝から酒を飲む日も。朝飲まなくたって、昼からは飲む。昼飲めなければ、夕方には飲む。時には、昼にカレーを食べる。しかも、辛口の大盛だ。
今日で50歳の誕生日。
あまりありがたくもない誕生日プレゼントを、病院からいただいた。
どないしよかぁ?
2
9月X+1日。今日は、朝のうちに歯医者の定期健診がある。
よって、朝からは飲めない。残念。
歯医者で歯石取りをしてもらい、すっきり。
昼からは、出版社との打合せ。まだまだ、飲むに飲めぬ。
ゲン担ぎに、カツカレー。400グラム大盛りの辛口。まだ、飲めん。でも、昼にこれだけ食っておけば、夕方以降少々酒を飲んでも悪酔いしない。酒を飲む前にカツカレーを食べると、胃にいいらしい。
どこかの週刊誌の記事で読んだことがあって、それ以降、しばしば実践しておる。
15時には銭湯が開く。16時30分ごろを狙って、ひと風呂つかる。
夕方、17時になって、ようやく、酒にありつけた。
今日は、駅前の居酒屋「くしやわ」。
飲み放題でしっかり飲み倒す。生ビール、大ジョッキ4杯。
締めのラーメンと行きたいが、そこまで、食べられそうにない。
うちに帰って、アイスクリームをつまみに、ウイスキーを一杯、ロックで飲む。
21時過ぎに、とりあえず、横になった。
3
9月X+Y日目。日曜日。
朝は、6時過ぎに起きだした。いつもはつけないテレビをつける。
8時30分から30分間、あのアニメを観る。
そのために、すでに携帯電話の電波は止めている。
でも、電源は切らない。あの報道番組をこちらで見るためだ。
コーヒーを飲みながら、運命のときを待つ。
8時27分。このあと、すぐ!
8時30分。今週も華々しくオープニング。
途中、携帯電話のテレビから、巨人優勝の報。
その後、元阪神の大投手の訃報。
大投手が甲子園の巨人戦でノーヒットノーランを達成した日の映像が流れる。
アニメの少女戦士たち、いよいよ変身。だけど、今回は携帯の画面にくぎ付け。
少しは、溜飲が下がったかな。
これはひょっとして、今年の阪神日本一の予兆かもしれない。
プレーオフを勝ち進み、パリーグのどこかを倒して日本一。
やがて、アニメが終った。
チャンネルを変え、報道番組のスポーツニュースを見る。スポーツコーナーが終わった時点で、テレビを切る。おそらく、来週の日曜の朝まで、観ることもないだろう。
ここで、携帯の電波をオンに戻す。だけど、特に電話はかかってこない。
少しばかり仕事をして、外に出る。
まずは、自転車で30分近くかけて、スーパー銭湯へ。サウナに入って、汗を流す。
それから、駅前に戻って、昼前から最近できた居酒屋で一杯。
ビールのうまいことこの上なし。コンビニで、ビールとアイスクリームを買って帰る。
夕方には、お好み焼きの宅配。ビッグサイズを注文。これをつまみに、一杯飲む。その後は、アイスクリームをつまみにウイスキーをロックで飲む。
早めに、寝た。
4
9月X+Y+1日。夜中の2時前に起き出す。
パソコンを立上げ、メールチェックをした後、早速、仕事をする。要するに、短編小説を、書いて、おるのです。はい。これまでにない手ごたえを感じ始めた、今日この頃。何かを突破できそうな予感がする。
丑の刻すなわちお化けの時間を仕事に費やす。お化け屋さん達が退却されても、こっちは、仕事。4時過ぎには、パソコンをいったん切って、もう一度、横になる。
7時過ぎ、再び目覚める。朝ラーメンの店は、6時から開いている。8時までなら、200円ほど安い。早速起きだし、簡単にメールチェックをした後、ラーメン店に向かう。
今日もまた、朝ラーメン。ついでに、卵ご飯も注文。新鮮な生卵をご飯の上に落とし、特製の海苔しょうゆをかける。最近は、ご飯に醤油をかけてから、卵を落とす。しっかりと箸でかき混ぜると、クリーミーになり、量が増えたような感じになって、いい。ラーメンを食べる。煮干しそばだ。旨い。これだけ食べれば、まず、夕方までもつ。
昼間は、執筆の仕事。ペットボトルの珈琲をすすりながら、仕事に励む。
締切りの近づいた小説に、ひたすら取組む。
すでに書いていたものからスピンアウトしたものを出す予定だったが、昨日から書き始めた短編のほうがまとまりよくなりそうだ。何だかんだで、昨日から4万字ほどの文字を連ねている。もう少しで、書き終えられよう。あとは、最後の締めをどうするか。
夕方の17時が近づいてきた。着替えて、ツッカケ履きで自転車に乗って街に出る。
銭湯で疲れをいやした。さあ、飲もう。
この日は、駅前のくしやわで、飲み放題。適当に、あてを頼んで夕食代わり。ビールが進む。そんなにビールばかり飲んだら体を壊すじゃないかと言われそうだが、逆です。身体のためです。食べ過ぎないようにするには、ビールに限ります。しっかり飲めば、あとでやれ飯だ、ラーメンだとならなくて済む確率が高いからね。飲みながら、野菜や魚、時に肉類を食べる。最近は、そう無茶食いしない。
帰ったら、19時を少し回った頃。
パソコンを立上げ、メールチェックをして少しばかり執筆の仕事。
21時過ぎには、横になった。まるで、小学生並みの就寝時間だ。
4
9月X+Y+2日。夜中の1時前に起き出す。
さすがに、小学生のように何時間も寝てはいられない。
7時間も起きずに寝られるのは、年に数回、あるかないかだ。
メールチェックを終え、ペットボトルのお茶をすすりながら、小説の続きを書く。あるシーンを書いていると、何だか、これまでにない感情が高ぶってくるのがわかる。今思うと、あれは、単に感情が高ぶっていたのではない。明らかに、書き手としての力がワンランクアップしているときだ。そういう感触だった。なぜ、このときだったのかと言われても、説明に困るが、要は、書いて、書いて、書きまくっているからこそ、レベルアップしていくもので、それまで書けなかった、書けてもうまく表現できていなかったのが、すんなりと書けるようになっていく、そんな書き手のステージの「変わり目」に入ったのだと、考えている。それが正しいのかどうか、そんなことはわからない。
私は高校時代、プロ野球の本を読んでいた。赤バットの川上哲治選手が打撃練習に没頭していて、あるとき、ボールが止まって見えたという感触を得たという。その「止まった」ボールにバットを当てると、球はぐんぐんと遠くに飛んでゆく。あれほどの大打者ゆえの感覚なのだろうとは思うが、野球に限らず、物事を突き詰めていけば、そういう感覚に至るときが来るというのも、大いに理解できるし、真剣に取組んでいれば、そんな感覚を頭だけではなく、体感することができるというのも、わかる気がする。
実際、その感覚を得てこの方、これまでとは違う文章が書けているように思う。あくまでこれは主観だから、他者に対して客観的に証明せよと言われても、困るのだけどね。
この日は、4時30分ごろまで書きまくり、何とか、その小説を仕上げた。
あとは、寝かしつつ、推敲という名のブラッシュアップを図らねばならぬ。
まだ、外は暗い。電気を消し、横になった。
目覚めると、8時過ぎ。30分ほど横になって、体と気持ちを整える。
起き出したら、メールチェックとネット情報の確認。それから、夜中に仕上げたあの小説の推敲。ずっと書いているうちに、どのようなものを削ればいいかも、見えてきた。
小説を書くというのは、ありもしない絵空ごとを書くように見えるが、それは、他の性質の「文書」を書くときと比べてそう見えるだけのこと。確かに、絵空ごとを描いている。実在しない人物の、仮に実在したとしても、いずれにせよやってもいないことを書くわけだから、それが絵空ごとだと言われれば、それまでだ。だが、いくら絵空ごとの世界だと言っても、そこで書くことは、自分の設定した世界では、現実に起きている「事実」なのです。ということは、ですな、小説を書くということは、実は、「事実」を書いて積み上げていくことなのである。少なくとも、それが基本中の基本だ。それなくして、「創作」はあり得ない。想像力とか情景一致とか、いろいろ、評論文や裁判書きなどの文書を書くこととは、確かに違う要素はあるけど、そんなものは料理で言えば「盛り付け」とか「味付け」のレベルの話。「盛り付け」や「味付け」がいくら良くても、素材をきちんと料理していないものが料理たり得るわけもない。小説を書こうと思い立って1年半もかかって、私はようやく、そんなレベルにたどり着いた。ただしこれは、頭でどうこうではなく、肌身で身に着いた能力だ。特に誰かに教えを乞うたわけでもない。
私は、プロ野球の本を高校時代によく読んでいたと申し上げた。
現在のようにコーチもほとんどおらず、自分で工夫してやっていくしかなかった時代のプロ野球選手は、人のプレイする姿を見て、その技術を盗んでいた。それを気安く「教えてください」と言おうものなら、「金持って来いよ」と言われたなんて話は、いくらもある。ああ、この世界も一緒なのだなと、このところ、体感することしきり。
1時間ほど、仕事した。まだ、朝の10時前。
着替えて自転車に飛び乗り、駅前の立ち飲み酒屋に向かった。
キリンの大瓶ビールを1本、あおった。
そのあと、朝ラーメンの店まで、自転車で繰り出した。
またも、ラーメンの大盛りをペロリ。
汁まで、完食!
何だか、元気が出てきた。
よし!
学生街にあるカレーの店は、11時に開店する。
ちょうどいい塩梅になった。
開店と同時に、カレー屋に飛び込み、今度は、カツカレーの大盛辛口。
後払いでもいいが、面倒なので、私は先に払ってしまう。650円也。
まずは、千切りのキャベツが出てくる。これで、胃腸を整えよう。
程なくして、カツカレーが出てきた。
ライス400グラムのカレーを、とんかつとともに、ペロリと平らげた。
これで、本人は腹八分のつもり。緩慢な自殺などというなかれ。どうせ人間、いつかは死ぬ。どんなに節制していても、生きていること自体が、緩慢なる自殺じゃねえか。
じゃあ、緩慢なる暴飲暴食? それは、当たっているかもしれん。
うちに帰って、少しだけメールチェックをした後、横になった。
まるで、保育園か幼稚園の昼寝だな。
小一時間少々、うとうとし、さらに1時間、横になっていた。
14時過ぎに、起き出した。ネット情報とメールをチェックし、再び、仕事。
昨日の小説、かなりの部分を削った。しかし、同時に書き足しも行った。
何だか、血の循環というか、体内の水分の循環みたいだな。
そう考えると、今私が書いているこの小説は、確かに、生きているのだ!
生まれて間もないこの文字のまとまりは、新陳代謝を繰り返しつつ進化している。
その「行程」に立会っているのが、他でもない、この、私だ。
この文字のまとまりは、人前に出て、やがて、独り歩きをしていく。
その時まで、私は、この文字のまとまりたちの世話をしなければならない。
私はこの50年来独身で、子どももいない。
だが、たくさんの「文字のまとまり」たちの、親である。
そう思うと、なんだか、こそばゆい気分になる。
夕方になった。
さて、今日も、風呂に入って、一杯飲んでこよう。
5
2019年9月29日。日曜日。
朝は例のアニメを観た。
昼からは、この30年弱の間、毎月通っている散髪屋に行った。
これまで20年以上、X円でやってもらっていたのが、この10月から、10%を追加した額でやらせてくれとのこと。聞くと、消費税率の「キリ」がよくなるのを機に、税務署が組合などに指導を強化しているそうだ。まあ、20年以上この値段でやってもらっていたのだから、むしろありがたい限り。ちなみにその散髪屋までは電車で約30キロ弱あるのだが、途中の駅で分けて切符を買うと、安くなる。消費増税後は、全体としては10円アップなのだが、分けて買えば、今と同じ値段で行ける。
この日は散髪があったため、昼間から飲むわけにはいかなかった。
でも、夕方には、初めて入った飲み放題のあるやきとり屋で、一杯飲んだ。
6
2019年10月1日。いよいよ、消費税10%に。今日はその初日。
朝起きて、朝ラーメンの店に行き、ラーメンの大盛りと卵ご飯を食べた。全体で、80円の値上げだ。昨日はお客が多かったが、今日は、静かなもの。記念に、レシートをもらってきた。昼は仕事が多々あり、酒を飲むわけにもいかず。昼食は、朝のラーメンがあるので、食べずに終わる。これも、健康のためです。
夕方までにかれこれ仕事を済ませ、銭湯に寄って体を癒してから、ようやく、とある寿司屋でヱビスビールにありつく。この寿司屋のクーポンは、1グループ(1人でも可能)4000円以上飲食すると、2000円引となる。それをうまく利用して、2000円ちょっとに収まるように飲食するのが、私の秘かな「楽しみ」だ。
寿司ばかり食べるのも難なので、サラダ風の炙りサーモンが入った料理を頼み、あとはいくらか寿司をつまむ。メニューを見ていると、確かに据え置きのままのものも多いが、一部、これを機に値上がりしているものもあった。値段を頭に入れつつ、作戦を立てながら、ヱビスビールを飲む。
予定通り、中瓶を3本飲んだ。
うまく行けば、消費税込の2004円で行けることは事前に計算していたのだが、今日は、少しばかり失敗。2015円になってしまった。
帰りにコンビニに立ち寄って、ウイスキーを1本買った。デビットカードなので、2%還元。昨日までとそう変わらない値段で、買えた。
うちに帰って、アイスクリームをつまみにウイスキーを飲んだ。
前のボトルが、ちょうど1杯分だけ残っていた。
買ったボトルは、今、冷凍庫で保存中。
また、明日以降に飲もう。
7
そうそう、血糖値。
明日病院に行ったら、どうなるだろうな・・・?
「緩慢なる暴飲暴食」のツケは、いかほどのモノであろうか?
ではまた、あした。
(2019・10・02筆)
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