第3話 祝・三日坊主

    1

 雨が降っている。ベランダの向こうから、雨音が聞こえる。

 実は、台風が来ているそうだ。直撃する地域は、大変だろう。

 でもこの地には、ほとんどかすらない。

 ごくごく普通の、雨の日の朝。そしてその雨も、昼過ぎには止む模様。

 実に静かな、秋の日の朝だ。


   2

 「短編小説を書こう」

 私は、決心した。

 「短編なら、文字数も少ないし、さっさと書き終えられるだろう」

 確かに、その通り。あとで削る苦労もあるにはあるが、そのときはそのときだ。

 気に入れば、さらに書き足して中編や長編にすることも、それらにうまく組込むことだって、できます。何だか、作文で書くことがなくて困っている小学生が、文字を埋め込んで、字数を稼げたときのような気分になります。

 今私がやっているように、パソコンに文字を打ち込んでいけば、文字はどんどん埋まっていく。気が付けば、それなりにまとまった文章になっているだろう。

 

 「あいうえお」


 他には何も書かれていないのに、書いた者は、「これは小説だ」と主張している。

 誰がどう見ても、「あいうえお」が、小説であるわけもないだろう。

 もっとも、「あいうえお」氏なる人物は、実際におられた。


 「阿井卯栄雄(読み方、本当に「あいうえお」)」

 

 かつて国鉄で課長をされていた人で、今から50年ほど前、鉄道ピクトリアルという雑誌に何度か記事を書かれている。

 それはともあれ、「あいうえお」とだけ書かれた小説が、あり得るのだろうか?

 私は、あり得ると考えている。


 「あいうえお」と書いたが、これはノンフィクションであると言ったら?

 ノンフィクションなのですよ。人がどう思うかは、知らんけどな。

 社会評論だと言ったら? もちろん、社会評論です。

 ただし、それが小説であれ、ノンフィクションであれ、はたまた社会評論であれ、読んだ他人がそう判断するかどうかは、火を見るまでもなく明らかではあるが。


 或る小説家がいる。書斎で酒を飲みながら、次の小説の構想を練っている。

 だけど、何かを書いたわけじゃないし、今すぐ書こうと思っているわけでもない。

 そこに、小説があると言えるのか?

 客観的には、文字もない。題さえも、まだない。

 テーマ? わかるか、ボケ!

 確かに、或る小説家の頭の中には、小説の全体像がすでに出来上がっている。

 そしてそれは、文字化されるや否や、某出版社が早速製本して、本屋に出回る。

 電子書籍化され、ネットからも読めるようになる。

 彼は確実に、その小説だけで、年内にも数百万円を稼ぐだろう。

 でも、現実にはまだ、或る小説家の「書いた」文字は、何一つない。

 口頭で、誰かに表現された形跡もない。


 繰り返す。重要なことなので、もう一度、お尋ねしよう。

 そこに、小説は、あるのですか?


 小説でもなんでもそうじゃけどなぁ、文字を書かにゃあ、おえんのじゃ。そりゃあそうじゃが、読んでくれ言われても、何も書いてなきゃ、読みようも考えようも、しようがねかろうがぁ・・・。小説ってぇのは、何だかんだで、文字を書かなきゃ、始まんねぇ。逆に言えば、文字さえ書けば、そこから、何かが始まるンじゃよ。それはな、ノンフィクションでも社会評論でも、なんでも、そうじゃ。


 小汚い岡山弁で、世にもわけわからんことを、うだうだホザくなぁ! 


 と、世にもろくな苦情が入りそうなので、これから少し、まじめに、書きますね。


   3

 散髪のお話。一応、対象は男性ということでよろしく。女性、特にロングヘアーの方のことは、ここでは除外させていただきます。男性の髪型には、七三わけのような長髪の方もいらっしゃれば、私のように短髪で丸刈りに近い髪型の人もいる。

 そこで、問題。

 前者の方が髪の毛の量をたくさん切るから、後者の人よりも金をたくさんもらうべきだ、と思っている人がいる。

 これに対する反論は、こうだ。

 前者の場合、確かに量としてはたくさんの髪を切るが、後者が楽なのというと、決してそんなことはない。髪型を整えるのは、後者の方が、はるかに難易度が高い。まあ、ただただ丸坊主にすればいいというのなら、そう難しくもないだろう。極端な話でも何でもなく、自宅の風呂場かどこかで、誰かにバリカンで刈ってもらえば済むが、短髪でそれなりの髪型にするのは、存外難しい。トーシロ風情にできることでは、ない。

 私は同じ髪型を、30年近く維持している。散髪は、以前は1か月に1度のペースだったのだが、最近は、2週間から長くても3週間に一度のペースで行く。

 かつてブログを書いていて、そのことで「うんちく」を垂れたら、2チャンネルになんと、「神ブログ」ということで紹介されてしまった。

 スレッドナンバーまで覚えている。

 忘れも、しないよ。


   〉〉425 こだわりの坊主刈り

 

 これは気に入った。その後、私の髪型は、この名称で通っている。そして、散髪という概念から一足踏み込んで、「維持活動」と名付けてみた。こちらはそう定着しているわけではないけどね。でも、短髪の特定の髪型をほぼ同じ形で「維持」しているわけですから、間違いじゃないどころか、ある意味、私の髪型の本質を突き当てているようにも思うのですが、どうでしょうか?


   4

 話が大きくそれました。それじゃあ、本題に行きますね。小説の長さの問題。

 長いほうが、文字数も枚数も多いので、書くのに時間がかかる。しかも、誰もがおいそれと文章を書けるわけもないから、難しいことこの上もない。

 それは確かに、当たっています。

 だけど、長編小説というのは、同じ話ばかりするわけにもいかんでしょう。

 あれやこれやと、書いていけばいいし、そうしないと、読む方だって持たない。

 とにもかくにも書いていかなきゃいけない。

 陸上競技で言えば、マラソンみたいなものよ。

 

 中編小説はどうか?

 長編ほど長くないから、文字数も枚数もそれほどない。だから、時間はそれほどかからない。まして、書き慣れた人間なら。長編ほど、難しくもなかろう。

 それも確かに、当たっています。テーマも、絞られてきますしね。

 だけど、無駄なことをだらだらと書くわけには行かなくなりますわな。

 それなりに、筋をまとめていないと、散漫さだけが目立つ駄文に成り下がる。

 陸上競技なら、例えば、3000メートル走のようなものかな。


 そして、短編。さっきの散髪のお話、思い出してね。

 短いと、本当に、無駄なことは書けない。テーマも、ひとつに絞らないといけない。

 大して長くもない文章の中にテーマが4つも5つもあったら、何が言いたいのかって、読むほうも困るよ。それだけに、文字や文、ネタの選択には、細心の神経を使うことになるわけさ。それが決して、楽な話ではないことは、言うまでもないでしょう。

 それこそ、陸上競技で言えば、100メートルや200メートル、あるいは400メートル走のようなものですな。


   5

 「短編小説を書こう」

 そう思って、おとといから書き始めた。

 1日1作のペース。あっという間に、2作、出来上がった。

 確かに、分量は少ないし、テーマも絞っているから、すいすい書ける。

 もっとも、いくら6000字弱の文章といっても、すいすい書こうと思ったら、ある程度の分量の文章を書けるだけの「体力」がないといけない。そのうえで、きちんと「事実」を書いていく力が求められる。小説というのは妄想を書いてもいいように思われているようで、実際、そういうものを書いてもいいし、そここそが勝負どころではあるのだが、その妄想ごとを活かすにも、「事実」をきちんと描き切らなければ、折角の妄想も活きない。分量が書けて、その上さらに事実をきちんと描き切る力があってこその想像力であり、妄想力、そして、文章への「味付け」なのです。

 想像力?

 エロ本を読んでいる18歳に至らぬ若者のほうが(18禁とか、そういうツッコミはナシね)、よほど、そこらの小説家よりハイレベルの想像力を持っているのではないか? 


 え? それって、妄想力なのでは?

 じゃあ、そうなのでしょう。


 ま、とにかく、書いていけば、必要に応じて、なんとかなるものです。

 心情描写とかなんとか、そんなものは、あとからついてくるものに過ぎない。

 100メートルだけ速く走ればいいから100メートルしか走らないというのでは、100メートル走で入賞することもかなわんわけです。マラソンと同じくらいとまではいわないが、ある程度以上の距離を走る力もないのに、100メートル走で結果は出せない。

 逆に、100メートルをダッシュする力もないのに、マラソンで勝てるということもない。最後の追込みに耐えられなければ、それだけで順位が下がってしまいかねない。記録を維持することもできない結果になるからね。

 文章を書くのも、同じことですよ。


 ちょっと、テーマが思いつかなかったから、愚痴をまとめてみた。

 この文章は小説である。

 私がそう言えば、これは、小説なのです。


 「出来損ないのエッセイを読まされて気分が悪い、金返せ!」

~ やだぴょん。

 「時間を返せ、この二束三文文士!」

~ うっせえ、駄文も書けねえサンシタ野郎!

 

 「 」に記したようなことを思っている方に、一言。

 これは明らかに、自己責任です。

 でも、あなたがエッセイと思われるなら、エッセイなのでしょう、この文章。


 祝・「三日坊主」達成! ~ ヤッホーぃ!


 はよ、雨、止まんかなぁ・・・。~ やれやれ。

                      (2019・10・03筆)

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