第2話 金 壱万六千五百円也

   1

 壱万円札 ~ 聖徳太子

 五千円札 ~ 聖徳太子(右に同じとは、なんか書きたくないので)

 千円札  ~ 伊藤博文

 五百円札 ~ 岩倉具視

 合計 壱万六千五百円也


 昭和56年、1981年の秋。当時小学6年生の私は、これだけの金を持たされて、学校に行った。忘れもしない。修学旅行の費用だった。

 普段の給食費、当時、確か、3000円前後だったように思う。

 いわゆる「小遣い」は、当時、月に500円かそこらだった。そんな金では何も買えないだろうと、今なら思うところだが、そんなに使う用もなかったし、少しまとまったときに、何か買えばという感じだった。たいていは、本か何かに費やすことが多かったかな。

 とりあえず、壱万円札なんて大書された世にも高級な紙を持ったり、ましてやそれを使って買い物をしたりすることなんて、1年に1度、あるかないか(そもそも記憶がない)。見かけることさえ、ままあることじゃなかった。よく見るといえば、五百円札か千円札のどちらか。それなら、たびたび使ってもいたし、なまじお金がまとまっていれば、それを使って買い物することはままあった。お釣りでもらうのは、大きくても五百円札。稀の稀に、五千円札を手にして買い物をすることがあったような、なかったような。そういうときに限っては、千円札がお釣りとしてこちらの手元に返ってくることも、これまた稀の稀、そのまた稀だが、ないわけでもなかった。

 お年玉としてもらうのは、多くても、ようやく五千円まで。

 複数の大人からもらったものをまとめても、一万円に到達した記憶は、ない。

 当時の日記や小遣い帳などが残っているわけでもないが、今もし残っていたなら、相当びっくりするだろうな、貨幣価値の違いに。


   2

 それにしても、何で、「一万六千五百円」なんて数字を覚えていたのだろうか?

 今となっては、そんな金額を支払うような用事があったところで、いちいちどんな通貨を使って払ったかなんて、記憶になど残ることはまずなかろう。ひょっとしたら、通貨なんか使わず、銀行からの口座引落とか、キャッシュカードで振込とか、あるいはデビットカードあたりで支払っておしまい、なんてところがオチだろう。それでも現金で払うということにでもなれば、そうですな、こんなパターンが考えられましょう。


 1 一万円札 ~ 福沢諭吉 2枚

  お釣り 3500円(禁酒はしないが金種も不問 ~ 洒落です夜露死苦!)

 2 一万円札 1枚

   五千円札 ~ おばけこと樋口一葉 1枚

    注 とある知人との間では、「おばけ」で通っています。

   千円札  ~ 野口英世 1枚

   五百円玉 ~ 1枚

 3 五千円札 ~ おばけ 1枚

   千円札  ~ 10枚

   五百円玉 ~ 3枚(こんなんにしてみました)

 4 千円札  ~ 17枚(ATMでこういう引出し方、できまっせぇ~)

  お釣り、500円(多分、100円玉5枚。ということにしておきます。はい)

 5 一円玉  ~ 一万六千五百枚(いかがな、ものか・・・苦笑)

    注 「強制通用力」なるものがないから、これは完全に、嫌がらせです。ただし、これはあくまでもネタですので、許してね。

 6 現物支払 ~ 商品券もしくはクオカード等、集めて一万六千五百円分


 あれあれ、現金じゃなくなってきた。

 そういう問題じゃ、ない、って? たしかにぃ~!

 もうええ、やめさらせ!

 そういう声が出てきたようなので、このあたりで、先に進みます。


   3

 昭和56年当時流通し、なおかつ印刷されていた紙幣は、最初に述べた4種類。それが1枚ずつ、きれいに揃っていた。そんな形ですべての紙幣を手にする機会なんてなかったから、今も鮮明に覚えているというわけか。

 それにしても、あれは、子ども心にも壮観な気分になれたものよ。

 近年の小学生の修学旅行は、1泊2日、岡山市南部は大阪、京都、奈良方面。新大阪までは、新幹線の団体専用の臨時列車で行って帰ってくる。運が良ければ、グリーン車に乗れる幸運もあるとかないとか。実はそれ、私が小学生の頃と同じだ。車両が変わっているとか、そういうことをつつきだせばキリがないけど、特に変わっていないことに驚かされる。ちなみに、一人当たりの負担額は3万円をいくらか上回る額だとのこと。存外高いような気がするが、あれだけの旅行を支える人件費やら何やらを考えたら、昔も今も、そうそう変わるものではないのかな。


 国鉄時代、いくら労使が激しく対立し、ストライキや順法闘争を実行していても、修学旅行用列車だけは運転をしていたという。当時は今ほど、人々が遠出していなかった。まして子どもたちは。簡単に遠出できる今は、修学旅行の値打ちも昔ほどではないのかもしれないが、まあ、なんだかんだで、子どもたちには楽しみの一つ、なのでしょう。

 (終 2019・10・18筆)

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