第23話 ポン闇
初めてそれを見たのは、あたしと久吾が小学二年の秋だった。
ひみつきちの中のひみつきち。お兄もリコも、高校に友達がいないのか卒業してからも分校に遊びに来るヤエちゃんも溜まっていた体育倉庫の中で、跳び箱の中はいつからかあたしと久吾だけの秘密の隠れ家になっていた。
まぁ隠れたところでやることといったら、駄菓子や果物を食べながらのポケモンやパワプロか、意味もなくじゃれ合った末に発展する喧嘩くらいなもんだったんだけど、まぁとにかく学校で、しかもお兄やリコやヤエちゃんにも内緒で遊ぶワクワクゾクゾクが、子どもながらに堪らなかったのだ。
今思えば、背徳感という言葉を知らないだけで、その感覚と中毒性だけは脳が覚えてしまっていたのだろう。
八歳のあたし達でもそうだったのだから、十五歳の二人がそれを知らないわけがなかったのだ。
あたしらなんかよりも、ずっとずっと知っていて、ずっとずっとハマってしまっていて、ずっとずっと溺れてしまっていて。
行為の意味は知らなくても、二人がものすごく「バカ」になってるんだということはあたしにも久吾にも分かった。マットの上で、動物みたいな顔をして、動物みたいな声を出して、動物みたいな恰好で、動物みたいにまぐわって。そこにはたぶん、「気持ち」なんてなかった。本能に従ってるだけの動物にしか見えなくて、普段のお兄とリコの間にある、悔しいほどの信頼関係が感じられなかったのだ。
行為の意味をちゃんと理解していなかったのは十五歳の二人も同じだったのだということを、何年後かにあたし達は気づいた。
そういうことなのだろう。
ちゃんと準備をしていたかなんて、小二のあたしらには確認しようがなかったけど、動物がそんなのするわけないんだから。
ずっと前、リコん家のコムギがなぜかうちのクロと同じ黒くてモフモフの子を産んだことがあったっけ。
あの時の二人なんてクロやコムギよりずっとバカだったよ。すぐ近くでガキ二人にジッと見られてることに全然気づかないんだから。
まぁお兄とリコにはそんなこと一生教えなくていっか。あたしらはそんなこと、もう何とも思ってないのに、トラウマがどうとか妙な罪悪感を覚えさせてしまいそうだし。
そんなのはいいんだ。どうでもいい。
リコにはちゃんと、お兄の人生を狂わせたという自覚を持ってもらう。それ以外はどうでもいい。
そうなのだ。考えてみれば全部そう。元凶はリコなのだ。
リコなんていなければ、お兄がこんなに落ちることもなくて、倒錯して中一のガキなんかを好きになることもなくて、だからヤエちゃんに付け込まれてピエロ役をさせられるようなこともそもそも起こりえなかった。
ホント、全部リコが悪いじゃん。
何であんたはうちにのうのうと出入りし続けてんの? 何でうちの家族の一員みたいな顔してんの? そんな資格、ないじゃん。ねぇ? ねぇ? ねぇ? そうだよね?
なのに何でお兄はいつまでもいつまでもリコにとらわれてんの?
さっさと切り捨てればいいじゃん。もう終わったことなんだから。
あーあ、また久吾に「歪んでる」とか言って本気で心配されたりしそう。うざ。きも。
あんただって、世の中の女がみんなあたしらみたいだと勘違いしてたせいで、現実とのギャップで村の女以外とまともに目も合わせらんないじゃん。
ヤエちゃんもド田舎育ちの反動で、東京で本当に狂っちゃったし。ヤバい目してたよ、あれ。もう倫理観とかぶっ飛んじゃったんだね。
結局、健やかに育ったのはクロムギちゃんだけか。よかったね、あんたは。三橋さん家に引き取ってもらえて。
あーあ、いろいろ教育がもっとちゃんとしてるとこならよかったのに。東京に生まれたかったな。いや、いっそ海外か。そうすればこんなに拗れて絡まったりしなかった。闇深村のせいで、もう取り返しなんてつかないよ。
ホント、あたし達はポン闇だ。
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