第20話 リアリティショー

「な、一目で内容が分かる素晴らしいタイトルだろう? 考えた人天才だと思わないかい? まぁ私のことなんだが。どやぁ」

「…………もっと……っ」

 あたしはどこかに、どこにもありもしない望みをかけて――小さな頃あんなに楽しく遊んでくれたお姉さん――ヤエちゃんに向けて、乾いた声を絞り出す。

「もっと、ちゃんと説明して、ヤエちゃん……」

「だから要するにな、人間観察バラエティだよ。まさしくリアリティショー。まぁドッキリとも言えるな。『田舎で恋しちゃお♪』という架空の高校生恋愛リアリティショーに高校生のふりして参加させられた田舎のアラサー二人を面白おかしく観察するバラエティだ。アラサーの二人は視聴者達を騙していると思い込んでいるが、実は騙されてるのは自分達というわけだな。もちろん私と二人との番組参加交渉の時点から隠しカメラを回しているし、体育倉庫のカメラも実際に稼働している。やらせ会議も番組を構成する重要なシーンさ」

「「――――」」


 言葉が……出てこない。何て言えばいいの?

 あたしも久吾も目を見開いたまま、ヤエちゃんの「ネタばらし」の続きを待つことしかできない。


「君達の本当の関係性、そしてその関係性を君達がどのように隠している『つもり』になっているのか――その全てを冒頭で説明された状態で視聴者はこの番組を視聴することになるわけだ。ただ、一つだけ視聴者に向けてのサプライズを仕込んでいてな……実は澄香は中学一年生なのだ! 自分達を騙しているつもりの出演者達を笑って見ていたら、実はやっぱり自分も騙されていた――こういう驚きの仕掛けを必ず一つは隠しておくというのがテレビマンとしての私のポリシーでな。どうだ、裏の裏をかいた素晴らしい作戦だろう!」

「「…………っ」」


 ダメだ、何か頭がクラクラする……何だこれ、今私は何と会話をしてるんだ……? こいつは何……? ホントに人間……? あたし達と一緒に育ってきた幼なじみ……? 


 もうわけわかんない。平衡感覚が狂ってきたみたい。どっちが上でどっちが下なのか……既に布団に入って寝転んでいるはずなのに、さらに「倒れ込んで」、床に沈んでいってしまいそうだ。


「な、何だ二人とも、そんなに胡乱な目をして……ほ、本当だぞ! 別に都合よく使える人材を従兄妹の天志と澄香以外に見つけられなかったから仕方なく中学生の澄香を使ったわけではないぞ! 私そんなに無能じゃないもん! お兄やリコちゃんみたいな村にしか知り合いがいないポン闇と違って、東京で頑張ってきた私は芸能事務所とかにもたくさんコネクション持ってるもん!」

「あの……ヤエっちゃん……」


 久吾が布団から這い出て、弱弱しくヤエちゃんの手を握る。その姿は、敵に命乞いをする死にかけの負傷兵のようで。


「ヤエっちゃん……さすがにそれは、お兄とリコっちゃんに対して酷すぎるというか……」


 あたしもハッとして久吾の後に続く。そうだ、呆けてる場合じゃない。


「そーじゃん、このままじゃヤエちゃんにとっても……さすがにコンプラ違反ってやつなんじゃないの!? こんなの配信したら普通に炎上するっしょ!?」


 あたし達の必死の訴えを、しかしヤエちゃんは軽く受け流すように、


「ははっ、全く、いつまでも子どもだなぁ、君達は。大人の私達はこんなの冗談で済ませるのだよ。私とあの二人の付き合いは長いからな。君達が生まれる何年も前からずっと一緒にいたんだ。全部分かりきっているのだよ、互いにな。お兄とリコちゃんは私に何をされたって結局許してくれるのさ」

「「…………っ!」」

「ま、私達にとってはコントみたいなものなんだよ。いつものように二人が呆れながらも許してくれるシーンを流せば、どんなクレームが来ようと関係ないさ。当事者の間で合意が取れていることに他人からとやかく言われる筋合いなどない。世間の声なんてものに屈してたまるか……! 私は新世代の敏腕テレビマンなんだ!」

「「――――」」


 ああ、もう何も言えない……何を言っても無駄だ。ヤエちゃんにはもう、あたし達の言葉は届かない。

 そしてたぶん――そもそもあたしと久吾には、ヤエちゃんに何かを言う資格なんて、ない。


「なんだ、もしかしてあの二人が君達に怒っていたことを気にしているのかい? 安心しろ、少しばかり拗ねているだけさ。そもそも結局は転校生達と結ばれることもあり得ないわけだからな。この村しか居場所がないあの二人のこと、すぐに向こうから私達に泣きついてくるよ。チョロい、チョロい。なっはっは!」

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