第7話(1/8)
密度の濃い勉強合宿を終えてから一週間後。
いつものように学校から帰り、家でゴロゴロと漫画を読んでいると、傍らに置いていたスマホが震えた。
ソシャゲの通知だろうと思いつつ画面を見ると、意外なことに差出人は香椎さんだった。俺は思わず起き上がる。彼女とLINEしたのなんて、交換したその日に少しだけだ。
またも、合宿の夜に水内に言われた言葉が頭をよぎる。
『今平気? 電話してもいいかな?』
……あるのか。本当にあるのか!?
『いいけど』
と、平静を装って返事をする。けどってなんだよ、けどって。
すぐに着信があった。見えやしないのに、なぜかベッドの上で正座してしまう。
もしもし、と耳元で香椎さんの声が聞こえ、緊張感が増す。いや実際問題、別に香椎さんのことが異性として好きだとかそういうわけではないけど、やっぱり可愛い女子と電話という、ある種の異常事態には胸が高鳴らざるを得ない。男子のさがというやつだ。
「いきなりごめんね。私、文字打つの得意じゃなくて」
実はそれも電話をする口実だったりして……。いやいや待て待て焦るな俺。
「全然いいけど。どうしたの?」
「んっとね……。そんな大したことじゃないんだけど……あ、いや、やっぱり大したことかもしれない……」
何とも歯切れ悪い。俺はゆっくりと続きの言葉を待った。
「えっとね。悠里ちゃんが、なんか最近よそよそしいなって思って」
「あー……」
なんとなく予感はしていたけど、やっぱり悠里のことか。そしてそれは俺も薄々感じていたことだった。
足を崩して、ベッドに隣接する壁にもたれかかる。
確かにここ数日、具体的に言うと合宿が終わってから――いや、合宿三日目から悠里の様子がどこかおかしかった。昼食は一応一緒だけど、悠里の方から俺達に話し掛けてくるはないし、移動教室程度なら一人で行ってしまう。なんというか、入学当初の悠里に戻ったみたいだった。
俺はそう伝える。
「だよね! やっぱりそう思うよね!」
「香椎さんは心当たりある?」
「さっぱり……。それで春樹くんに連絡したんだよ」
「なるほどね」
「どうかな?」
「いや、俺も全然」
とは答えたものの、全くの心当たりがないわけじゃない。合宿二日目の夜、ベランダでされた質問。あの薄い笑顔。何か関係がある気がしたけど、確証はない。何より、あの時間を誰かに晒したくなかった。
そっかぁ……、と香椎さんは落胆の声を漏らす。
「それじゃあさ、春樹くんの方からちょっと訊いてみてくれない?」
なんで俺が、と言いそうになるけど、適任なのは表向きは親戚かつ一番長い付き合いの俺だった。
それにまぁ、俺だって悠里がああなっている理由は気になる。
「分かった。明日にでも様子見て訊いてみるよ」
「ありがと」
それから惰性的に、今課されている提出物をやったか否かの話をして、電話は切れた。
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