第6話(6/9)

 それからはひたすらに問題演習を重ねた日中だったけど、今日は昨日と違って四時半には授業終了となった。

 この合宿のメインイベントの一つであるバーベキューの準備があったからだ。人手があり過ぎても作業がしにくくなるだけなので、準備に駆り出されたのは一組から俺達三組まで。残りの四組から六組は片付けという寸法だ。


 そして今は、そんなバーベキューも終わって、もう一つの息抜きである肝試しが開始されるのを待っていた。待機場所であるこの駐車場は、バーベキュー場とも距離が近く、片付けをする生徒達の喧騒も明かりも届き、まだまだ肝試しの雰囲気は出来上がっていなかった。


「うー……気持ち悪いです……」

 お腹と口元に手を当てながら悠里が嘆く。


「そりゃあれだけ食べればな」

 小食で肉が苦手な悠里をそうさせた犯人はカボチャだ。どうやらきゅうり以外も瓜は大抵好きらしい。しかも他の皆は大抵肉に走るから、焼けたカボチャはどんどん悠里の元へ積まれていったのだ。


「だいじょーぶゆずゆず?」

 木苺さんが心配そうに顔を覗き込み、悠里の背中をさする。実は彼女の方が悠里より圧倒的に飲み食いしていたはずなのにけろりとしていた。


「お化けにびっくりして戻したりしないといいけど」

「それはお化けより怖い」

「肝試しっていっても大したもんじゃないから大丈夫っしょ」

 木苺さん以上にドカ食いしていた透がそう言う。線が細い方とはいえ、さすが野球部員の食べっぷりだった。


「まぁあんまし期待はできないよねぇ」

「先生達が脅かすんだっけ?」

 合宿の説明をされた時のことを思い起こす。


「らしいよー。あとはどうしても怖いって子達は残って受付とかタイムキーパーやるみたい。……ほら」

 と言って木苺さんが指差す先には、バインダーらしきものを抱え、先生達と話し込む女子生徒がちらほらいた。


「……私もやっぱり手伝いしよっかな」

「……わ、私も」

 香椎さんはまだしも悠里が怖がるのは不思議だった。俺は周りに聞こえないよう悠里に耳打ちする。


「(どの立場でお化け怖がってんだよ)」

「(怖いものは理屈じゃなく怖いんです。第一、別に私達はなんの恨みも悪意も持ってないですし)」

 確かに悠里は、違うのはその体質や術くらいで、思考とか倫理観とかは人間の範疇に入るものだった。


「春樹さんは怖くないんですか」

「まぁお化けを全く信じてないわけじゃないから、墓地とか心霊スポットってなれば怖いけど……今回は脅かしてくるのが誰か分かってるわけだし。ってか森の具合も家の周りと大差ないっぽいし」

「まぁそうかもしれませんけど……」


 パンパンと、手を叩く音が聞こえた。音の主は学年主任の先生だ。


「それじゃあ前半組の肝試し始めるぞー」

 と、説明が始まった。


 ちょうどここから大きく円を描くように施設の入り口近くまで遊歩道があるらしく、それを単純に歩くだけとのことだ。今日は特別に街灯を落としてもらっているとのことだけど、やっぱりそんなに怖くなさそうだった。


 一度に参加できるのはちょうど五人までで、クラスの中から自由に組んでいいとのことだったので、俺達は揃って受付を済ませる。

 一組から順だったので結構待って、喧騒もすっかり落ち着いた頃にようやく順番が回ってきた。

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