第5話(3/3)

 バス停を降りると、学校と家とで道は別々になる。


「あの春樹さん、申し訳ないんですけど、これ持って帰ってもらえませんか?」


 差し出した紙袋に入っていたのは、前まで着ていた服とスニーカーだ。確かに服はともかく、靴は邪魔になるだろう。


「別にいいけど、いつまで持ってりゃいいの?」

「明日春樹さん水やり当番でしたよね? その時に呼んで渡してください」

「りょーかい」

「あ、あの……」

「ん?」

 悠里はもじもじと空になった両手の指先を合わせる。


「えっと、今日はありがとうございました。これなら夏希さんにもゆゆさんにも笑われないと思います」

「別にあの二人は笑わないとは思うけど」

「それでもです」

 悠里は微笑んだ。服も相まって、いつもより柔らかな印象だ。


「それじゃあ行ってきます!」

「あ、ちょっと待った」

 学校へ向かおうとする悠里を呼び止めて、俺はポケットからあるものを取り出す。


「ほら、プレゼントだ」

 それはさっき最後に悠里が見ていた白い花のへアピンだった。


「え、春樹さんこれって……」

「じゃ、そういうことで」

「え、ちょ、え、春樹さん!? え、えぇ!?」

「ただの気まぐれだから」

「ちょ、あ、えと……春樹さん!?」


 俺は恥ずかしくなって、タイミング良く青信号になった横断歩道を掛け行く。


 やばい。顔が熱い。柄じゃないことをしてしまった。


 それも全部、悠里があんな服を着るからだ。




 あーもう!

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