第4話(4/4)

 週末を挟んで明くる月曜日。

 悠里と揃って教室に入ると、


「お、噂をすれば影が射すとはまさにこのこと」

 木苺さんがにんまりとした笑みを浮かべて俺達を迎えた。その慣用句、なんとやらで誤魔化さない人初めて見た気がする。木苺さんの周りには香椎さん、それとクラスメートの女子が二人いた。確か名前は小林さんと秦さんだったけ。


「聞いたよー。マッキー、川に落ちたゆずゆずを助けたんだって?」

「え、あー……一応そうなるのかなぁ……」

 その言い方だと、まるで悠里が溺れていたのを俺が救ったかのようだ。


「またまた、謙遜しちゃってー」

 後ろの方で小林さんと秦さんも、きゃーと囃し立てる。しかし香椎さんだけはどこか疑問そうな表情をしていた。


「いやでも、そうなんだよね。あれ、悠里ちゃん普通に立ってたよね。春樹君も降りる必要あった?」

「え、あー、それは……」

 なんて返すべきか、頭を素早く巡らせる。思い返してみても、確かにあれは不自然な行動だった。悠里を拭くにしても、普通なら彼女が岸に上がってからすればいい話だ。

 しかしその言い訳が出る前に、


「なっつん。きっとマッキーはゆずゆずが心配で居ても立っても居られなかったんだよ」

 と、木苺さんがフォローを入れてくれた。まぁ語弊があるけど、この際仕方ない。俺は肯定を示した。


「ふーん……」

 香椎さんはどこか腑に落ちない様子だったけど、悪事を働いたわけでもない、それ以上追及してくることはなかった。


「しかし愛されてるねぇゆずゆずは」

「あ、愛……っ!?」

 ……なんで俺を向く。俺だってリアクションに困るのだ。


 いやそもそも愛なんかじゃない。あくまで俺が悠里を助ける理由の根本にあるのは脅されているからだし、必要以上に手を掛けているのは優里に同情したからだ。


「大事にしなきゃダメだよー。こんな良い人他にいないってー」

「ゆゆちゃん大学生の娘を持つお母さんみたい」

「女の子しか産んでなくて、彼氏さんを自分の息子のように可愛がっちゃうあれね」

 小林さんと秦さんが独特の突っ込みをする。

 しかし悠里は、木苺さんの言葉しか耳にしていなかったらしく、こんなことを言った。


「え、えっと……じゃあ、ゆゆさんは春樹さんのこと好きなんですか?」

「……へ?」

 異性を好意的に捉えたらそれすなわち好き。まるで小学生のような思考の飛躍に、俺以外の皆はほっこりとした笑みを浮かべる。俺はといえば、さすがに当事者なので気恥ずかしさが勝っていた。


「うーん、ゆゆ的にはまだまだかなぁ。ま、精進あるのみだね」

「なんでそんな上から目線なんだよ」

「身体的な目線は低いからね。その分心の目線は高く持とうかと」

 俺が突っ込み、木苺さんが茶化し、場はほんのりとした笑いに包まれる。よしよし、上手く逸れた。惚れた腫れたの話題は、下手すれば気まずい空気になるから苦手だ。


 しかしまぁ、一時はどうなることかと思ってこの週末は少し気掛かりだったけど、どうにか上手く収まってくれたみたいだ。むしろ禍を転じて福と為ったというべきか、目の前では悠里が小林さんと秦さんに話し掛けられていて、良いきっかけになっているようだった。


 その様子を眺めていたら、

「矢蒔くんはお父さんみたいだね」

 と笑われた。

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