第4話(3/4)
「おい悠里! 大丈夫か!?」
「悠里ちゃん大丈夫!?」
俺達は慌てて声を掛ける。さして高いところから落ちたわけでもないけど、たぶん川も浅い。どこかに身体を打ち付けてる可能性は十分あった。
しかし悠里は、ぷはぁ! と勢いよく顔を上げた。
よかった、とりあえず無事なよう……よくない!
香椎さんはもちろん、騒ぎを聞いて周囲の生徒達もこちらに注目している。頭から水を被った悠里の姿を見られるわけにはいかなかった。
「びっくりしたぁ。でも大丈夫そうだね――春樹君!?」
俺は急いで川に降り立つ。
股下まで水が浸かるが、気にしてる場合じゃない。俺は上着を脱ぐと、
「まったく悠里は仕方ないやつだなぁ!」
「わ、ちょ、春樹さん!?」
頭を隠すように、わしゃわしゃと髪を拭いた。そしてそのまま、視界の塞がった悠里を抱きかかえる。しっかりと対策済みのジャージから水が滴る。
「え、ちょ、今これどうなってるんですか!?」
「(うるさい。いいから大人しくしてろ)」
「(え、えぇ!?)」
水面に浮かぶゴミ袋と、ジタバタと騒ぐ悠里を強引に、さっきまでゴミ拾いをしていた河原へと運んだ。
「二人とも大丈夫?」
「あー、うん、全然。けど濡れちゃったから先に学校戻ってるね。香椎さん、ごめんけどゴミと先生への連絡お願いしてもいいかな」
「え、それは全然いいけど……」
「じゃ、よろしく頼んだ!」
「え、あ……」
矢継ぎ早にそう言って、何か言いたそうな香椎さんと清掃道具一式を残し、強引にこの場から退散する。
もちろん悠里はジャージを被せたままなので、まるで犯罪者が連行されるかのようだった。はたから見たら誘拐しているようだから俺の方が犯罪者になりそうだけど。
人気のないところまで逃げ出すと、悠里を解放する。
「ぶはっ! ……あー、苦しかった」
ジャージを取った悠里の頭はすっかり乾ききっていた。さらさらと髪が舞う。服の方も、肌が水気を吸ったのかさほど濡れていなかった。
「というか色んなところ触り過ぎです。春樹さんの変態」
「……あのなぁ」
理不尽にも程がある。元はといえば誰の不注意でこうなったと思ってるのか。
「けどまぁ……」
悠里はそっぽを向いて、ポツリと呟くように言う。
「……助かりました。ありがとうございます」
「…………おう」
俺も恥ずかしくなって、視線を外す。錆びた金網のフェンスに真新しい選挙候補者のポスターが貼られていた。こっち見るな。
「それじゃあ学校行きますか」
びしょ濡れになった俺のズボンを見ると、なぜか笑ってそう言った。
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