第1話(2/5)
山を下り、大通りを横切り、再度坂を上ると到着するのが立瀬東(たつせひがし)高校。俺がこの春から通う高校だ。
正面玄関には人だかりが出来ていた。あそこにクラス分けが貼り出されているらしい。さてさてどんなものかと、俺も一年生の欄の前に立つ。
しかし自分で結果を探すより早く、
「よぉ春樹! お前も五組だな!」
肩を組むとともに吐かれたその台詞によって、自分のクラスを知らされた。
「うぁ、透か……。お前も、ってことは透も?」
新学期のささやかな楽しみを奪われ、若干の恨みを込めつつ肩に回された腕を外す。
「おう。これで中学合わせて四年連続だな」
「……いい加減透の顔も見飽きたなぁ」
「悲しいこと言うなってー!」
そう言って笑い合う。
小樽透(おたるとおる)とは年月もさることながら気が合うタイプで、恐らく一番の友人と呼べる存在だった。クラス分けを見ると、他にも中学が同じの見知った顔はいるみたいだけど、大半は知らない人間だ。そんな中に透がいるというのは非常に心強い。
とりあえず教室行こうぜ、という透の提案で、俺達は一年五組の教室へと向かった。
しばらく透と雑談に興じ、ホームルームが始まるのを待つ。予定ではこの後に担任から挨拶、各自自己紹介をした後に入学式という運びになっている。
九時に自席に着いてさえいればいいとのことだったけど、さすがに初日ということで皆五分前には自席に座りそわそわしていた。……いや、皆と言ったけど一人を除く。
俺の後ろの席が空だった。
窓際の最後尾、初期の席配置は出席番号順なので、俺“矢蒔春樹(やまきはるき)”の次に当たる人物が、まだ来ていなかった。荷物もないので手洗いとも思えない。入学初日からギリギリなんてなかなかワイルドなやつだなぁ、そんなことを考えていたら、
ガラガラガラ――と扉を開ける音とともに、教室が静まり返った。
一瞬の静寂の後、「可愛い……」「人形みたい」「どこ中だろ。二中にはいなかったよね?」などと、新たに教室に入ってきたその人物を見やり、口々に感想を述べる。
俺も同様に彼女を見て、その容姿に驚いていた。
ただ、決して可愛いからではない。
……だって、その感想は一時間ほど前に終えていた。
そう。彼女は間違いなく、今朝池で出会ったあの少女だった。入学式の朝に池の中に佇むという、なかなかどころじゃないワイルドさを持つ人物。格好から学生だとは分かっていたけど、まさか同じ学校、同じクラスだなんて。
彼女に濡れた形跡はない。この短時間で乾くはずがないし、恐らく一度家に帰って着替えてきたのだろう。
「っ!」
目が合った。向こうも驚いたように一瞬目を見開く。しかしすぐに真顔に戻ると、ゆっくりと教室の中へ足を運ぶ。空席は一つ。しかし彼女は一応黒板に貼り出された座席表を確認し、そして席に着いた。……そう、俺の真後ろに。
わずかな緊張感とともに「今朝、池にいなかった?」と訊ねようとしたけど、担任が入ってきてしまいすぐにホームルームとなったので叶わなかった。
仕方ないので一人、忘れていたというより深く考えないようにしていた今朝の出来事を思い出す。
一体彼女はなぜあんな場所にいたのか。まぁその理由としては、大事な何かを池の中に落としそれを探していた、とかが無難だろう。もっとも、入学式の前という時に制服を汚してまで見つけたかったものが何かは大いに気になるけど。
そして何より謎なのは、どうして浮上してこなかったのか、あの後どこに行ったのか、だ。
担任の挨拶もクラスメート達の自己紹介も聞き流して、俺はそんなことを考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます