ここだけの話、柚木悠里はきゅうりが好きらしい。

ラムチョップ三世

第1話(1/5)

 まだ少し肌寒い春の朝。

 新生活の期待に胸を膨らませながら、学校への近道のために林を抜けると、



 ――制服のまま池に浸かる少女がそこにいた。



 池があるのは俺の家がある小さな山の中。池も同様に小さなもので、きちんと整備された道もないので人は滅多に来ない。俺もここが家から学校へのショートカットに使えなければ、まず来ないところだ。

 当然管理されている様子はなく草木は茂り荒廃しているようだけど、池の水は不自然なほどに澄んでいる。

 その池の中、岸から数メートルといったところに少女はいた。足は着いているようで、動きはない。


「………………」

 あまりにシュールな状況で言葉が出て来ず、まじまじと彼女の姿を見つめる。


 肩口で切られた黒い髪は、ついさっきまで水中にいたことを知らせるように彼女の肌にべっとりと貼り付いていた。その隙間から大きく見開かれた右目だけが覗いている。水面にはセーラー服特有の大きな襟が浮いていて、彼女が学生であることを知らせていた。


 どう考えても不気味な状況かつ人物なのだけど、少ない情報で分かるほどに可愛らしいその容姿がその不気味さを上書きし、まるで童話の一幕のようにも思えてくる。


「あ、あの……」

「っ!!」


 俺が声を掛けた瞬間、彼女はびくりと身体を震わせ、そのまま水中へと潜って行った。

 しばらく待つけど、一向に上がってくる気配がない。泡の一つもなかった。


「なんだったんだ……」


 まさか死んだわけじゃないよな?

 俺はまだ寝ぼけているのかもしれない。

 狐につままれたような気分になりつつ、学校へと向かったのだった。

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