おそろしき姫と蒼の王子

とざきとおる

第1話 〈律〉

 日ノ本は神秘の呪い(まじない)の世界。

 周りを海によって囲まれ、独自の文化を重ねてきたのは人間でだけではない。人智を超えた力を持ち人々を脅かした存在、妖(あやかし)は、伝説として語り継がれてきている。

 人々を蹂躙し、当時の天下を狙おうとした大蜘蛛。

 人々を食い、己たちの力と生命の源とした鬼。

 人々に恐怖を与えた、一般的に妖怪や悪霊と呼ばれる怪異。

 妖に共通するのは人間の悪意や汚れた心によって覚醒し、呪術と呼ばれる超常の力を行使して、己らを生み出した根源たる人間を脅かすことだった。

 しかし今日人間が生きているのは、人々を滅ぼしかねないおそろしきものに立ち向かった英雄がいるからだ。

 大蜘蛛を倒したのは、凄まじい呪いの力を宿した大太刀を持つ武人だったという。

鬼を殺したのは、凄まじい身体能力を持つ鬼と同等に戦えた忍びとされている。

そして妖怪や悪霊は、呪いの力で彼らを祓う陰陽師と呼ばれた者たちが封印したそうだ。

 彼らは歴史の表舞台の人間として語られることはないものの、妖の持つ呪いの力を人間にも使える術として発展させる偉業を成し、妖を倒して人々を救った影の英雄として、一部の伝説の中にその存在を残している。

 そして現在。

 日ノ本に再び妖は現れた。外見、否中身まですべて人でありながら、その体に忌むべき印を持ち、生きる人間を殺したがる呪いを持つ、おそろしきもの。

 かつての異形と違い、今の日ノ本には、おそろしきものが圧倒的な数が存在し、彼らに抗う英雄もまた、遍く人々に認知される英雄として存在し、おそろしきものの攻撃から人々を守り続けている。

 その英雄たちは人々から〈律〉と呼ばれる。

 現代までで発展した科学技術と古来より受け継がれた呪術を組み合わせた、新たな戦い方を考案しその方法でおそろしきものと日々戦い続けている。

 ここであえてもう一度云おう。

日ノ本は神秘と呪いの世界。

 その言葉も今や神秘と呪術が集う場所と言う意味ではなく、呪術をもって超常の存在と日々戦わなければ生き残れない戦乱の世である、という意味となっていた。

たとえ〈律〉が存在しようとも、この世界に明日を保証できる居場所はどこにもない。

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