第20話 窓の下の忘れ物あるいは猫の日常

「終わらないからしかたないって?それじゃ僕らの約束なんかなかったみたいじゃないか。15年来の親友との約束なんかより、今年会った大人の女性との密会がいいってわけだ。大した親友だよ!」


「そうは言ってないだろう。それに何度も言うが、僕は先月引っ越してきたばっかりだ。まだ15年も付き合いはないし、第一、僕らは中学生じゃないか。大人の女性は先生だし、密会じゃなくて三者面談だ。転入したての僕のことを親友とまで呼んでくれるのはありがたいけど…学校行事はきちんと済ませなければ」


「僕はいつだって親友を優先するだろう。君がもし、今から東京上野動物園へ遊びに行こう!と突拍子もないことを言い出したとして、もちろん喜んでついて行くさ。荷物なんか何もいらない、この身ひとつで君に着いていくとも!この心意気を聞いても君はまだ三者面談に向かおうと言うのかい」


「それは君の面談が昨日終わったから身軽なんだろう。すぐに終わると聞いているし、そんなに目くじらを立てないでくれよ。それとも先生との面談で何かまずいことがあったのかい?まるでゴミを漁るカラスを前にしたように邪険にするじゃないか」


「まずいなんてもんじゃない、それはそれは口にするのも憚られる鬼の所ごう……しょぎょう…所業。…あーだめだ!言えないよこれ!何か他に言い回し考えてくれないかな。極悪非道!とかそういう簡単なやつに変えてもらいたいもんなんだけど、カントク!?」


「ダメよ。「鬼の所業」ただそれだけ、他には何も望んでいないわ。口が回らないなら、何度も練習するのみよ。表情筋の筋トレを増やしましょう。そして口の周りを鍛えるの。わかった?」


「ワカリマ、セン!いやだーカントク厳しすぎ、これで3日目だよ!直らないんだよなんでだか!スランプ!スランプだ、よし休もう」


「ちーのセリフが言えないとこの場面が締まらないから先に進めないよ?飛ばしていったってどうせ戻ってくるんだから、できるようにしといたほうがお得じゃない?」


「ヤメロっ!舞台演出め!2人して俺をスパルタンXする気だな。しょぎょー、しょぎょー、鬼のしょご、しょぎょー…あーもー!」


「みなさーん、差し入れですー。お昼前休憩にしませんか?」


「シマスッ!」

「まだよ」

「よーし、あ、うん、まだね」


「あれ、そうなんですか。朝から詰め詰めだったかと思いまして。じゃ置いときますので、キリがいいとこまでいってからにしましょう」


「ムッキー!やったらー!見てろ、俺の華麗なる口捌きを!」


「口捌きはいらないわ。役とセリフをお願い」


「はーい、楽しくいきましょう。よーい、はいっ!」

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