第9話 時置きの時計
夕方の風が涼しくなったと思っていたら、すっかり暗くなってしまった。
丘の上の公園には、もうだれも居ない。
ひとりブランコに身を委ねていたら、ぽつりぽつりと町あかりが遠くに見え出して、それを端からひとつずつ数え上げていたら、数え切ることを諦めるほどに人々を感じられるようになった。
キィーコ、
キィ、
キィーコ。
錆びついた金属は、くたびれていることを主張しながらも壊れることはなく、僕の体重を支え続けている。
どれだけ経っても、このブランコにとって僕という重さは取るに足らないものなんだろう。
朝露に濡れるズボンの裾は、朝飯のあとには乾いている。
昼間に見あげる飛行機雲は、次には空の白さに溶け合ってしまう。
夕暮れ前の1人の人間は、夜の深さに食べられていく。
そういったことなんだろう。
あの時計店で見たやり取りは、僕のなかのポッカリとした穴に、大きさの異なる鍵で開けようとしているみたいに、がちゃがちゃと騒がしさだけを残していた。
どうしたものか。
どうもしないのか。
時間が経っても、それは何も思い付かなかった。
今はただ、ここで風を浴びながら、他人というもののあり方を地上の星々からぼんやりと考えているだけだった。
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