第7話 ソレビト・トーチカ

謝らなかった。

気持ちが、頭が、全くと言っていいくらいに動かなかった。


だから、彼女の目に涙を浮かばせた原因は僕にあったのに、何一つ謝らなかった。


ひどい言葉を並べたと思う。

今思えば、彼女は彼女なりに精一杯だったんだろう。

だから涙をこぼしたまま、言い返すことなくこちらを見ていたんだ。

思い返すことができるようになった今では、そう感じる。

これは冷静さなどではなく、いまだにどこか俯瞰しているような感覚があることから、やはり帰ってこれていないんだと思う。


いや、見ていたのではなく、睨みつけていたのかもしれない。

悲しみの涙ではなく、怒りからくる悔しさであったのではないだろうか。


条件は同じ、もしくは彼女の方が立場的に弱かったのだから、それを頭ごなしに怒鳴り散らされたものだから、なにをと思って、そして言わずにただただ睨みつけていたように思える。


ただ、そう思えたところで、どんな事情であれ、僕は決して謝らなかったと思える。

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