第5話 夕焼けが照らす30センチ

進級して一月。

そろそろ亮平の「悪い」がなにを意味するか把握できるようになってきた。


口癖は人それぞれあるけれど、亮平の使っている「悪い」は感情表現豊かだ。

声をかける時、素直に謝る時、楽しく場を盛り上げる時、なにも考えていない時。

使えない場面が無いんじゃないかってぐらいよく言っている。

それはこの1ヶ月の中にぎゅっと凝縮されて、もはや「悪い」だけで亮平の考えていることがわかるくらいになった。


これはあれか。亮平のことは、親友と呼んでもいいのかもしれない。一月で深められる交流はしてきたと思う。勉強に遊びに、クラスの中でも一番の付き合いだろう。

そう思うと、特段何が変わるわけじゃないけれど緊張してきた。

わざわざ「親友」とカテゴリ分けすると、気恥ずかしくなる。特に仲が良い、くらいで済ませておくのがいい。

そう自分に言い訳してみる。


人の気も知らずに亮平が歩いてきた。

あの顔からするに、開口一番「悪い!」と言うに違いない。

ニヤついてるのか申し訳なさそうなのか判断がつかない顔をするというのは、亮平の特技かもしれない。


「悪いんだけど、祐一さ…」


「おっと、それは知らないパターンだ」


「なんの話?」


「いや…、悪い」


まだまだ深まる余地はありそうだ。

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