第25話 殺し屋集結


 ぼくらの背後から草葉をかきわける音がした。


 ワーラットぉぉぉぉ、と一瞬、背筋が凍りそうになったけど、元師団長のクランツェは余裕の表情だった。

「おや、おや、今日はずいぶん盛況だな」


 荒くれもの然とした男たちが、ばらばらと広場に姿を現わした。

「ベクトールってぇ、ヤツはどいつだ?」


 からだじゅうキズだらけの、がたいのいい男が叫んだ。


 だれもなにも答えなかった。

 あたりまえだ。

 そういう風に打ち合わせをしている。


 だけど、アリスも、ロランも、パケット——。みんながぼくを見ていた。


「ははん、おまえか?」


 瞬でバレたーー。


「だったら、なんだ?」


「おまえの首に1000万ボゾンの賞金がでてる」


 はぁ——————?。

 なんで?、なんで、なんで?。 

 頭がパニックになった——。


「苦労したサ。なかなかアンタの名前のパーティー聞かなかったからサ」

「あぁ、ギルドに登録されたおかげで、やっと名前を見つけたンンだからナナナ」


 ずっと『アリス・パーティー』とか、『アリ・トール・パーティー』って名乗ってたから……、見つからずにすんだ……んだ。


「ベクトールがなにしたってぇのよ?」


「さぁね?」


「さぁね……って。それってどういうことです?」


「こいつは裏世界のモンに配布された、きわめてプライベートな指名手配でな。殺す理由は不問ってことになってる」

「裏世界でモモモ、1000万ボゾンっていう賞金は、ソーソーないンンだからナナナ」


 バイアス……。

 彼のさしがねだ。まちがいない。

 そしてほかの連中も承諾済みのはずだ。


 やっぱりさいしょから、追放したくらいで、許すつもりなかったんだ……。


 カラ、カラッと上のほうから、小石が転がり落ちてくる音がした。

 広場の奥、クランツェが守っている洞穴の、崖の上に数人の男たちがいた。


 顔に迷彩の化粧をほどこした蛮族のような姿——。

 全員がとんでもなく幅広の牛刀を、ひけらかせながらこちらをみていた。


「おいおいおいおい。そいつは、おれっちらの獲物だぜ」


 その蛮族をみた盗賊たちが、小声で囁くのが聞こえた。

「頭目、ありゃ、まずいサ。『スラッシャー・マニアック』ですサ」

「殺すだけじゃなくて、切り刻みまくるっていう、イカレ暗殺集団か……」

「あいつらが、まずいんじゃないサ。あいつらがいるってことは……」

「ま、まさか。『シノビ・スレーヤー』か!」


 ふっとどこからか、黒装束の集団が目の前に出現した。

 頭の先からつま先まで全身真っ黒で、見えるのは目だけだった。


 正面にいる人物が盗賊の頭目に言った。

「暗殺はわれらの手によっておこなう。いいな」

 あきらかに女性の声だった。


「おい、シノビ・スレーヤーさん。そりゃ、ねぇじゃねぇか。1000万ボゾンだぜ」

「心配するな。そいつはおまえたちがもらえ。首までもっていきなどせぬ」

「へ、どういうことで……?」


「こちらは別口で、暗殺依頼を受けている……」


 ど、どういうこと……なの……?。


「おまえたち賞金稼ぎでは、討ち漏らすと案じたのだろうな。我々プロ集団に、4000万ボソンで暗殺の依頼があったのだ」


 うそだろ?……。


 ぼくはがく然とした。


 1000万プラス4000万の懸賞金——。


 バイアスたちと旅したときに取り寄せアポーツしたのは5000万ボゾン——。

 あの5000万ボソンは使われてなかったのだ。




 だけど、今、ぼくを暗殺するために、その全額が、使われようとしている。

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