第21話 「きみたちは有能だ!」

 その足でギルド本部へ行って登録し、ぼくらは正式に『勇者パーティー』として認可された。


「おめでとう。ベクトール」

 パケットが自分のことのように喜んだ。


 ギルドの正面玄関からでていくと、ぼくらはほかの勇者パーティーの連中の激励を受けることになった。


「おれたちの分まで活躍してくれよな!」

「いつかは王立軍に登りつめてくれよ!」

「すげぇ冒険話をいつか聞かせてくれ!」


 そこにいるだれもが、ぼくらのパーティーに夢を託そうとしているようだった。

 

 みんな、ぼくとおなじように、夢を見た連中——

 みんな、ぼくとおなじように、夢、破れた連中——

 みんな、ぼくとおなじように、もう一度夢をみて……


 そしてそれを断たれた連中。


「ねぇ、ロラン。きみはここにきたとき、みんなの組み合わせのバランスがわるいって言ってたね」

「あぁ、そう言ったな」


「きみの目でここにいる連中を鑑定してくれないか。ベストの、いやベターな組み合わせでいい。もう一度チャレンジできるパーティーを組んであげてほしい」


「ふん、いいのか? ライバルをふやすことになるぞ」


 ライバル——


「いや、みんなぼくより優秀なひとたちだよ。ライバルだなんて……」

「わかった……」

 ロランは階段の上から、みんなを見おろすとツエをふるった。


 そのとたん、そこにいる連中のからだが、勝手にうごきだした。

 磁力のようなものに引っぱられるようにして、人々のからだがすべっていく。

 みるみるうちに、ギルド前の広場に、いくつもの『輪』ができていった。


 獣人と亜人のパーティー

 魔法使いだけのパーティー

 男だけのパーティー

 女だけのパーティー……

 それはまったくユニークで、見たこともない組み合わせだらけだった。

 初対面の相手と輪にされて、だれもがとまどっていた。


「みんな、聞いてくれ!」

 ぼくはみんなにむかって叫んだ。



「きみたちは有能だ!」



「たしかにパーティーからあぶれたり、追放されたのかもしれない。でも、それはきみたちが規格外だっただけだ。ほかの連中がきみたちを活かせない無能だったんだ……」



「だから……冒険をあきらめないでほしい!」



「きみたちには、きみたちにしかできない冒険のやりかたが、勇者へのなりかたがある——」



「どうか、おなじ輪にいる者同士で、ことばを交わしてみてくれないか。レベル3000の魔導士ロランが、きみたちのレベルや能力や相性にあわせて、最適なパーティーを組んでみたんだ」


「けっして、模範的なパーティーじゃないかもしれない。でもその組み合わせが、お互いの能力を引きたてあって、わるいところを補いあえるんだ」



「それって、最高なパーティーじゃないかい?」



 おのおのの輪で、ひとびとが自己紹介をはじめ、話しあいがはじまった。

 最初はおたがいに手探りで、おずおずとした会話だった。

 だけど、おどろいたことに、あっという間に、いくもの『輪』から笑い声がはじけていた。ひとびとの声はどんどんおおきく広がり、しだいに力強いものになっていった。


 身なりのいい勇者と、みすぼらしい剣士が、お互いの肩をたたいて大笑いしている。

 半獣人と魔法使いがいたずらをしあって、たわむれている。

 エルフと魔導士が、お互いの書物を見せあいながら、術式を熱く語りあっている。


 うぉぉぉぉ——


 どこからか、決起の雄叫びがあがる。

 それに負けじと、また別の輪の連中がときの声をあげる。

 


 どれもいいパーティーになりそうだ——



 パケットがにこやかに笑いながら言った。

「ロラン、きみ、すごいね。みんな、あんなに生き生きしている」


「あったりまえじゃない。レベル3000のロワンさまの見立てよ」

「アリス。なんでおぬしが、胸をはっておる」


「あら、アリ・トール・パーティーの隊長なんですもの。おなじでしょ」

「ま、称賛されるほどでもないか……。この程度、わしには朝飯前じゃからな」


「みんな自分のスキルを否定されて、自信をなくしていたからね。みんなのあんな晴れやかな顔、はじめて見るよ」

 パケットはにっこりと笑った。

「これでこの街もまた活気づくよ。ありがとう!」


 そう言うと、すこし寂しそうに顔をふせて、パケットが歩きだした。

 ぼくはパケットに声をかけた。


「パケット。どこにいくつもり?」

「あ、え、ぼくは、ほら、帰らなきゃ……」


「いかせないよ!」

 ぼくはパケットの腕をぐっとつかんだ。


「きみはぼくたちと一緒にくるんだ」

「え?」



「パケット。ぼくらのパーティーに加わってほしい」



「だって、ぼくのスキルなんて……」

「あぁ、知ってる。ひとからモノをくすねるクソ・スキルだ……」


「だから来て欲しい!」


「ぼくなんかで…… いい……の?」



「ああ、パケット。きみの力が欲しい!」



 パケットの目からポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちはじめた。

「いきたかった……んだ…… ほんとうは…… ぼくも……」


 うわぁぁぁぁぁーーーーん。


 パケットはその場にへたりこむと、声をあげて泣きだした。


「いきたかったーー ぼくも冒険の旅に……ずっと……いきたかったーー」



「あぁ、知ってる。だから——」

 ぼくはパケットの腕をひっぱって、からだをひきよせると耳元に口をよせて言った。




「ぼくらと一緒に旅にでよう!」

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