第20話 街の英雄

「ごたいそうなパワーを隠していたらしいけど、わたしの『先読み』のスキルの前では、赤子同然なのだよ」


 そう言ってから、マルセルは倒れているぼくに、蹴りを一発いれてきた。

 

 うっ!


「ふん。よくもわたしの部下を……。きさまの仲間もおなじ目にあわせてやろう」


 マルセルがアリスたちのほうへ向き直った。


 もう正義だとか勇者だとか言ってられない——


 ぼくはちからをふりしぼって、手の中に『ケンジュウ』を取り寄せアポートした。

 ぼくは倒れたまま、マルセルのほうへ『ケンジュウ』をむけた。


 これを、このフックをひくだけで、ぼくは、ぼくの仲間を守れる——

 その瞬間、勇者への道は——


 マルセルが自分の服から、ひきちぎるように、なにかをもぎとった。


 それはこの街にきたときに売りつけられた青いブローチだった。

 アリスとペアの、幸運のお守り——

 たぶん、殴られているとちゅうで、マルセルの服にひっかかったのだろう。


「胸くそわるいな」

 マルセルはそれを脇へ投げ捨てた。

 

 ——が、それがロランの頭にコツンとあたった。


専守防衛せんしゅぼーえー——」

 ロランが宣言した。


「なにを言ってるんだ。このチビっ子は?」


「おぬし、わしに先制攻撃をしかけたな」

「はぁ?」


 その瞬間、倒れていた部下たちのからだが、いっせいに浮きあがったと思うと、マルセルにむかって飛んでいった。

 だが、マルセルはそれを先読みしていた。ポーンとジャンプして、楽々とそれをよけた。

 

「無駄だ! わたしは5秒先が読めるのだよ。このチビ!」

「ほう、では次にわしがなにをするのか、読んでくれンか?」


「ふ、おまえは、魔法でわたしのからだを、はるかかなたまで吹っ飛ばす、そうだろう」

「うむ、そうじゃ」

「ほうら、完全だ! すべて先読みができるのだよ」


「だから?」


「『だから』?」


「だから、それをどう防ぐつもりじゃ?」


 マルセルの顔がゆがんだ。


 ドォォォォォンンン——


 教会の天井をつきやぶって、マルセルが上空へ吹っ飛んでいった。それを追うように、部下たちも次々と空へ飛んで行く。


 うわぁぁぁぁぁぁ——


 彼らがどこまで飛んでいったかはわからない。

 でも簡単には戻ってこれないのは、まちがいなさそうだった。



 アリスが倒れているぼくの顔をのぞき込んできた。

「ずいぶん、やられたわね」


「うん。でも、あのブローチ、ほんとうに幸運のお守りだった……」


「で、しょう」

 そう胸をはると、青いブローチをぼくの胸に、もう一度つけ直してくれた。



 ぼくはアリスの肩をかりて立ちあがると、よろよろと教会の玄関をでた。




 ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!

 うぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!




 教会の扉をでたとたん、うねるような、ものすごい歓声に出迎えられた。

 いつのまにか教会のまわりを、信じられないほどの人々が取り囲んでいた。

 

「あんた、すごいよ。あいつらをやっつけるなんて!!」

「ありがとう! マルセル一味を追い出してくれて!」

「いつか、本物の勇者がきてくれるって思ってたぜ!」


 だれもがぼくらに駆け寄り、感謝や祝福のことばを投げかけてきた。

 大人から子供までが、心の底からうれしそうにわらっていた。

 男も女もなかったし、金持ちも貧乏人もなかったし、種族のちがいだってなかった。

 全員がこころから歓喜をかみしめていた。


 祝福の輪のなかを通り抜けると、ケガをした勇者たちが、拍手でむかえてくれた。

 おそらく先ほど連中に襲われて、アイテムを盗まれた人たちにちがいない。

 

 そしてかつて『勇者狩り』にあって、浮浪者になっていた人々は肩を寄せあい——

 

 ——号泣していた。

 


 ぼくはとまどった——

 アリスもとまどっていた——



 でもうれしくて、うれしくてしかたがなかった。

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