第19話 泥棒スキル x すりスキル
「どうじゃったかな?」
覚醒するなり、ロランが訊いてきた。
「わからない。でもいくつか、実を手に入れた」
「実? 実ってなによ」
「パケットがかすめとったスキルは、木の実になっていた」
「ど、どこにあンの? それ?」
「いま、
ぼくは手のひらに力をこめて、手のひらの上に赤い実を出現させた。
「そ、それは……?」
「あぁ、パケット。あの『腕オバケ』のスキル……さ」
ぼくはその実をにぎりつぶした。
瞬時にからだの奥底から、ものすごいパワーが湧きでてくるのを感じた。
ぼくは牢屋の鉄柵をつかむと、両側にひっぱった。
鉄柵はまるでゴムかなにかのように、抵抗もなくグニャリとまがった。
「す、すごいじゃないのぉ、ベクトール」
「いやはや、これはおそれいった」
「ぼくのスキル…… つ、つかえるんだ……」
「さぁ、いまだ。逃げよう」
ぼくらは地下牢からでて走り出した。
祭壇脇の階段をいっきに駆けあがり、出口へむかう。
だけど、あと数歩で出口というところで、ドアがバーンと開いて連中が戻ってきた。
「ひひひひひ、いやいや、楽ショーだったな」
「ぶわわははは…… ちょろい、ちょろい。勇者なんて、弱いやつらばっかだな」
「今回もレア・アイテム、ゲットぉぉぉ、ってかぁ、うわはははは」
ぼくらはあわてて身を隠したけど、筋肉兄弟に見つかった。
「ナんだぁぁぁ。アイツらにげてるゾ?」
「ドーナッツてんだぁ。あのロウ、簡単にはでられないはずだぜ」
「ベクトール。さっきのスーパーパワーでやっつけちゃって!」
アリスが叫んだ。
よ、余計なことを——、と思ったけどもうおそい。
「スーパーパワーだと?」
首領のマルベルが、ゾッとするような押し殺した声で言った。
「どうやら、なにか隠しているようだね」
「はん、ベクトールはすごいスキルを手に入れたンだからぁ」
アリスはおどされても、強気一点ばりだった。
「アリス…… もう切れてる」
「は? なにがぁ?」
「さっきのスーパーパワー……」
「な、なんでよぉぉぉぉぉ」
「説明したよね。10秒から30秒程度しか持たないってぇぇ」
「じ、じゃあ、どうすんのよぉ」
「ベクトール。まだ赤いヤツもってたよね」
「うん。おんなじ実はいくつもあったからね」
「だったら、もう一度使える。一粒につき一回しか使えないけど……」
「ポーションの数だけ使えるっていうんだね。でも10秒だよ、たったの」
「まずはあの脚オバケのスピードは封じるのじゃ」
ロランが真顔でアドバイスしてきた。
今度はまちがいないプランがあるんだろう—— たぶん……
ぼくはふらーっと『脚オバケ』へ近づいた。
「みんな気をつけろ。こいつ、全員を殴り倒すつもりだ!」
首領のマルベルが叫んだ。
なぜ、わかった——?
でもマルベルの警告を、部下たちは鼻でわらった。
「殴り倒す? こいつがぁ?」
「ボス。ジョーダン、よしてくださいよ」
すぐさま赤い実を潰した。
筋肉兄弟兄『脚オバケ』に、弟の『腕オバケ』の10倍パワーで殴りかかった。
ズドン!!
一撃だった。
バカにした相手によける気もなかったらしい。
そのまま壁にめり込んで、おかしなオブジェと化した。
続けざまに、荒くれ連中のなかへ飛び込むと、ぞんぶんにパンチをくれてやる。
ボコン、バスン、ドカン……
みなおもしろいように吹っとんだ。
10秒後、そこにいた手下どもは、床にのびていた。
残るのは、筋肉兄弟『腕オバケ』の弟と首領マルベルのみ——
力が切れる——
ドッと腕が重たくなった。
全身の力がぬけて、その場にへたり込みそうになる。
ひとのスキルを使うというのは、こういうことなのだ——
「きさまぁぁ、よくも兄者ウォー。ぶっ殺ステイやるぅぅぅ」
剛腕をふりまわしながら、ぼくに殴りかかってくる。
ぼくはすぐさま青い実をつぶした。
脚オバケの10倍速スピード——
腕オバケのパンチがスローモーションのようにみえる。
腕オバケに何発もパンチをぶちこむ。
でもぼくの、へろへろパンチじゃ、なんの役にもたたない。
わかってる——
しゃーない。
赤い実を
10倍速スピードx10倍——
100倍パワー!!!!
よけられっこない。
次の瞬間、腕オバケは壁をつきやぶって、どこかに吹っ飛んでいった。
ぼくはその行き先を見ていなかった。
パワーが切れる前に首領マルセルを倒す必要があった。
だけど、ふりむいた瞬間、ぼくはマルセルにパンチを浴びせられていた。
そんなバカな——
10倍速だぞ。
「ベクトール。逃げろぉぉぉ。マルセルは5秒先が予測できるンだぁぁ」
パケットが叫んだ。
それ、はやく言ってよー
どんなに速く動いても、どんなにパワーがあっても、それ、無理ゲーじゃんか——
ぼくはまだ10倍速パワーが残っているのに、マルセルにいいようにボコられた。どんなに仕掛けても、すべての攻撃が先読みされて封じられた。
なすすべがなかった。
スキルのパワーが切れた。
ぼくにできるのは、その場に崩れ落ちることだけだった。
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