第18話 スリのレア・スキルをもつ少年

「わかってンだろ。あんたも」

 パケットはさばさばとした調子で続けた。

「まー、いいじゃない。オレはそんな夢をもったこともない。こんなクソみたいなスキルなんだぜ。いままで、どんなクズパーティーからも誘われることなんてなかったしね」


「そんな……。自分の特技をクソみたいだなんて……」

「クソだよ、クソ! 相手に触れただけでなんでもスれちまう。ただそれだけ。なんの役にたつんだよ!!」


 仲間に追い出されたときの、いやな記憶がおもいだされる。


「なんでもってなによ?」

 ふいにアリスが声をあげた。


「なんでもって…… なんでもだよ。そいつが持っているものなら、なんでもだ」


「スキルはどうじゃ?」

 ロランがにやりとしながら、パケットにたずねた。

 パケットがわざとらしく、顔をそむけた。


 ま、まさか、ひとのスキルが盗めるのか——


「パケット!!! 教えてくれ。きみはひとの『スキル』をスリとることはできるのか!!」

「い、痛いよ。ベクトール!!」

 気づくと、ぼくはパケットの肩をつかんで、荒っぽくゆさぶっていた。


「あるんじゃろ?」


 ロランが念をおすと、パケットはコクリとかるくうなずいた。


「じゃろうな。おぬしのからだのなかに、いろんなスキルのカケラが、たくさん詰まっておるのが、見えておったのでな」


 ロワン!!、ノープランじゃなかったのねぇぇぇぇ——

 ーーーって、だからどうなのよ。なんの解決にもなってねぇーーし。


「じゃあ、パケット。きみはいくつものスキルが使えるンだね」


「使えねぇ……」


「へ?」

「使えねぇンだよ。自分じゃな」

「ど、どーいう?」

「ひとのスキルの一部をかすめとって、ストックすることができるけど、自分じゃあ、このスキルを使うこたぁできねぇんだ」


「自分じゃ…… 自分じゃあ、取りだせねぇんだよ!!」


 取りだせない——

 それじゃあ、宝のもちぐされじゃないか……

 まったく使え……


 ちょっと待て——


 パケットはため込んだスキルを取りだせない——

 ぼくはなんでも、どこからでも、取り寄せアポーツできる——



 これ、無双できるンじゃね?





 パケットから聞いた話で、だいたいのことはわかった。


 スキルをもつ人物にさわると、いつのまにかそのスキルをかすめ取っていること。


 盗みとったスキルは、使えたとしても10秒から30秒の短い時間分だけしかない。


 一度使うと、それでおしまい。そのスキルは使えなくなる。


 そしてそのスキルのストックは、パケットの心の奥底に、まるいポーションのような形でたまっているとのことだった。


「ベクトール。ほんとうにできるの?」

 アリスが不安そうにきいてきた。

「できるもなにも、やらなきゃ。だめならぼくらは、あのみすぼらしい勇者のなれの果ての仲間入りさ」

「『ケンジュウ』使えばいいじゃないのよぉ」

「アリス。そんなことしたら、殺人犯の仲間入りになっちゃうよ」



 ぼくはパケットの肩に手をおいて、パケットのこころの奥底をイメージした。

 

 ふいにビジョンが飛び込んできた。


 身も震えるような咆哮。

 ひとびとの悲鳴。

 子供たちの泣き声——

 次々と魔物たちに、ひとが殺されていく様子。

 怪物たちに家々はこわされ、食い散らかされていく——


 嘆き。

 苦しみ。

 あきらめ——


 パッと目の前がひらけて、なにもない荒れ地が足元にひろがる。

 その荒れ地の真ん中に、一本の植物がポツンと立っている。

 ぼくの背丈とかわらない低い樹。


 樹にはちいさな果実のようなものがついている。

 色とりどりの透きとおった実は、豆粒大からブドウほどの大きさまでさまざま。

 

 ぼくはすこし大きめの赤い実を、指先でつまんでそれをもいでみた。

 その瞬間、目の前に、あの『腕オバケ』、筋肉弟の顔がふっと浮かんだ。


 これ……

 あの腕オバケのスキルだ。


 ぼくはそれからいくつかの実をもいだ。

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