第17話 裏世界の支配者につかまる
ぼくらが連れて行かれた場所は、廃虚になった教会だった。
いや、何者かに荒らされて、廃虚にされたのかもしれない。
室内にはおそらくその『何者』からしき、がらの悪い連中がたむろしていた。
筋肉兄弟のような、みるからに荒くれ者たちが、こちらを品定めするような目をむけながら、なにかをささやきあっている。
正面の祭壇のほうから、声がした。
「マスール兄弟。そいつらはなんだ?」
あたりをふるえさせるような、威圧感のある声——
荒くれどものおしゃべりが、ぴたりととまった。
「まルベル様……」
協会の正面の祭壇に玉座があった。
そしてそこにだれかが座っていた。
「セ、セんり品です。まずはコいつらのもっていたカネと、オンナっス」
そのカネはすくなくともぼくのだ——
『オンナ』、のほうは……、残念だけど、まだ。ぼくのものじゃない……
「なかなかいいオンナだ。で、こいつら、レア・アイテムはもっていたのか?」
「あ、イえ……」
「どういうことだ。今日は三ヶ月に一度の、レア・アイテム買い取り査定の日だ。そいつらもギルドにレア・アイテムを売りにきたのではないのか?」
「チ、ちがうようッス」
「では、そのオンナ以外は、身ぐるみ剥いで、外に捨てておけ」
「マルベル、サマー。そ、それが、こいつ、なんでもだセル『魔法のすきる』、もっテルらしいんデスよ」
「なんでも?」
「そうじゃ。こやつは一度見たものや、一度訪れた場所にあるものは、なんでも『取り寄せ』可能なんじゃ」
ロランのことばに、室内にいた連中全員が反応した。
「なんだぁ…… ほかの場所のものを取り寄せる……って泥棒じゃねぇか」
「おれたちとやってること変わんねぇな」
「訪れた先のモン、あとから盗むって、オレらよりタチが悪いぜ」
ぼくはなにも言い返せなかった。
「ドろぼうスキルだってよ。パケットぉ。おめーのお仲間じゃネーの」
脚オバケが襟首をもって、ひきずってきた少年にむかって言った。
「ソーだな。おめぇも、なんでもすれる、スリーのスキルだからな」
スリのスキル——?
スリはスリじゃないのか?
「ふむ。とりあえず全員、地下の牢にいれておけ」
「今日はレア・アイテムをもってぞろぞろとカモがやってくる日だ。そっちを優先する」
マルベルがにたりとわらった。
「そいつらを吟味するのは、そのあとだ」
地下牢は予想どおり、じめじめするイヤな場所だった。
「もう、ベクトール。これからどうするの?」
「どうするって……」
「あたし、こんなとこで冒険がおわるのイヤよ。あの脚オバケからは逃げ切れないし……。いざというときは、『ケンジュウ』であいつらを皆殺ししてでも守ってよ」
み・な・ご・ろ・しって!
勇者めざすひとが、簡単に口にしちゃいけないことばじゃないのぉ?——。
でも——
それくらいの覚悟がないのなら、勇者に憧れちゃあいけないのかもしれない。
ぼくは牢の隅でうずくまっているパケット少年に近づいた。
「ぼくはベクトール。きみの名前はパケット、でよかったかい」
「う……ん…… わるかったね。あんたのカネ、スッたばかりに、面倒にまきこんじまった」
「いいよ、すんだことさ。ところで、きみはスリのスキルがあるって聞いたけど?」
「まぁね。そーいや、あんたも盗みのスキルだって?。同類のスキルの持主にでっくわすのは、オレははじめてだよ」
「しっかし、よくそんなクソ・スキルで勇者、めざす気になったね」
「ぼくには見返したいヤツらがいる」
ぼくは笑われるのを覚悟で言った。
「ぼくは、ぼくを追放した勇者パーティーを、ぜったいに見返したいんだ」
「は、みんな、そういうんだよ。この街にくる連中はね。でも寄せ集めは、しょせん寄せ集めさ。役にたたない」
「元いた勇者パーティーを追放されたんだ。ダメなのはわかってるけど、それにすがるしかない……だろ……」
「役に立たないって……」
ぼくはなにも言い返せなかった。
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