第三章 恐怖に支配された街

第14話 あやしいギルドの街バテンデー

 ギルドの街『バテンデー』——


 ソムリア村をでて二ヶ月——

 やっとこの街についた。

 門の入り口には、太っちょと痩せっぽちの門番が立っていた。


「おまえりゃ、ギルドへの登録にきたンだぎゃあ?」

 太っちょのほうの門番にそう問われた。


「ええそうよ。このすてきな旗をみればわかるでしょ?」


「アリス・パーティー……言うんか」

 もうひとりの痩せっぽちの門番が、アリスが広げてみせた旗を見て言った。


 いいえ、ちがいます。

 この子が勝手に、いえ、勝手気ままに名乗ってるだけです。


「そうか…… だが気をつけるんだぎゃあ。この街じゃあ『勇者狩り』いうー、ならず者がうろうろしているんだぎゃあ」

「勇者狩り?」

「そうじゃ、王都で勇者パーティーの、王立軍への召しかかえがはじまっとるン、知っちゅうか?」

「ええ…… まぁ……」

「そのせいで、パーティーから追放される連中が、あとを絶たんのだぎゃあ」


 ぼくもそのひとりだ——


「んで、追放されたモン同士が、あたらしいパーティー組んで、ここに申請にきてるンぜよ」

「そいつらねらおうて、金品やおんなを奪おうちゅうヤカラが徒党を組んでるンだぎゃあ」

「なぜ、そんな連中が……?」



「そりゃ、追放されたヤツラなんて。組んだところで弱いにきまっとるでよ。いいカモにされるにきまってるだぎゃあ」

「ヤツラも元々そこそこ強かった勇者じゃったそうじゃから、寄せ集め連中じゃあ、勝てっこないぜよ」


「は、このアリス・パーティーをなめてもらっては困るわね」

 アリスがあごをくいっとあげて、ほこらしげに言った。

「わたしは仲間のパーティーが全滅したから、あたらしいパーティーを組んでるわけ。生きのびたほうなの! 一緒にされては困るわ」


 いや、ものすごい『逃げ足』でな!


「そうじゃ。わしのパーティーも全滅してしもうたのじゃ。使い物にならんパーティーにいたのは、いままでのほうじゃ」


 いや、たしかにそうですけど……

 ロラン、あんたが『専守防衛』の誓い、なんか立てなきゃ、全滅しなかったと思いますよ——


「そうか、これは、しつれいしたぎゃあ」

「まぁ、くれぐれも注意するぜよ」


「ご、ご忠告、あ、ありがとうございます……」


 ぼくの野望へのモチベーションは、そこはかとなく……削られた。



 街のなかにはいると、その華やかな様子に目をうばわれた。

 通りにならぶ店の多さ。

 露店や行商の人々の、騒々しい売り込み口上。

 はるか遠方に住む国の人々にまじって、ちらほらと亜人や獣人たちの姿も見える。


「さすがね。活気ある街じゃないの」


「ギルドがある街はどこもそうじゃ。ダンジョンで手に入れた戦利品を、ここで換金できるからな」

「まだお祭り気分にはなれない。ぼくらは登録にきただけだしね」


 でもアリスは完全にお祭り気分にうかれていた。 

 ひょいひょいと食い物屋をはしごしているし、露天商からなにやら怪しげな物を売りつけられていたりした。


「ちょ、ちょっと、アリス……」

「まー、まー、いいじゃないの。一度食べてみたかったもの、いっぱいあったんだもん。それに、このブローチ見て。『そこのべっぴんさん、幸運のお守りどうだい』って言うのよ。そりゃ、買うでしょ」


 ーーったくぅ。手あかのついた呼び込みに、ひっかかってどーすんのよ。


「アリス。勇者が『幸運のお守り』に頼ってどーすん……」


「ベクトール、つけたげる」

 そういってアリスが、ぼくの胸元に青く輝く石のブローチをつけようとしてきた。

「そんなものいらないよ、アリス」


「えー、これ、わたしとペアなんだけどなーーー」


 じゃあ、お願いします——



 ギルド支部がある街のはずれに近づくと、この街の陰の部分が見えてきた。

 裏通りや路地裏の建物の陰に、ひどい身なりのひとびとがいた。

 だれもが生気をうしなった、うつろな目をして、こちらのほうをぼーっと眺めている。


「ひどいな……」

「おそらくあれが、勇者狩りにあった連中じゃろう」


 ぼくはゾクリとした。

 あれがあたらしいパーティーを組んで、希望をいだいてこの街にきた連中の、なれの果てだとしたら……


 あそこにいるのは、明日の、ぼくだ——


「ああはなりたくないわね」


 どうしたら、そんな強気な発言がぁぁぁぁ。

 アリス、きみのもっているスキル。この世界的には『ハズレ・スキル』なんですけどぉ。


「彼らだって、それなりに強さをもっていたはずなんだ。そんなこと言えないよ」

「そうじゃな。あそこにいる連中、すくなくとも、おまえたちよりレベルが上じゃ」


「上……ね。ロラン。どれくらいのレベルなんだい?」


「最低でも10はあるな。なかにはレベル200の猛者もさもおるが、たぶん訓練不足で力を発揮できずにいるのだろう」


「ふん、たかが10だったら、7のわたしとそんなに変わんないじゃないのさ」


 それであの状態なんだよ、アリスぅぅぅ。

 しかもぼくは、0・735のゴミ虫並なんだからねぇぇぇ。



 フラグたつから、うかつなこと言わないで——

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