第13話 まるでドラゴンのような姿をした炎

 ゴォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!


 ものすごい火、いや、見たこともないほどの火炎が、ホースの先から一直線に放射された。


 まるでドラゴンのような姿をした炎——


 それが正面にある木々に襲いかかり、なぎはらうように炎につつんでゆく。

 その炎のいきおい、そして圧倒的なパワー——


 それはまさに『業火』だった——


 その炎は木々の表面をなめていき、あますところなく焦がし——

 奥ふかくまで潜りこんで、芯まで燃やしつくし——

 なかからぜて、バラバラに飛び散らせる。


 炎は落ち葉をつたいながら、無慈悲なほどの勢いで、あたりに燃えひろがっていく。 

 

 ぼくがからだをくるりと一周させたときには、あたり一面は火の海になっていた。


 ギャァァァァァーーーー

 ヒャァァァァァァーーーー

 ウギャーアァァァーーーー

 

 あちこちで精霊の悲鳴があがった。


 目をむけるヒマもなかった。

 悲鳴が聞こえたと思ったとたん、すぐさま沈黙につつまれた。

 それほどのスピードで、この炎は森を焼き尽くしていっていた。


「ベクトール!! わたしたちまで焼き殺すつもりぃぃ」

 

 上からアリスの怒声がひびいた。

 ぼくはアリスたちがからまっている、ツタの上のほうを慎重に狙って、フックに指をかけた。ツタは瞬時に燃えて切れ、アリスたちと子供たちは地面に落ちてきた。


 ドスン!

 

「いたいじゃないのぉ。ベクトール」


「ごめん。アリス。でもすぐに子供たちを連れて逃げて!」


 アリスはおどろくほど素直だった。

 縛られていたツタをほどくなり、子供たちふたりを抱えて、いちもくさんに走りだした。

 

 ここは、逃げ足がはやくて、助かった——


『き、きさまぁぁぁぁぁ』

 おどろいたことに、メラメラと燃えているのに、巨木の精霊は口をきいてきた。


『な、なにを……、したぁぁぁぁ』


 とりまき連中が巨木に続いた。

【おまえ、なまいきだぞ。なまい……】


 そこまでだった——


『きさまぁ、おぼえてろぉ。あのかたが……』


 ぼくは巨木の捨てぜりふをさいごまで聞いてられなかった。


 頭がぼーっとした。


 想像もしない勢いの炎のせいで、いつのまにか煙を吸い込んでいたらしい。

 逃げだそうとして、ぼくはその場にひざまずいた。


 からだが動かない——


 目がかすむ。


 ぼくはそのまま気をうしなった——






「ベクトールったら、わたしたちを焼き殺すところだったのよ」

「そうだよ。ぼくらも、木の上から落とされたンだ」


 目をさましたとき、ぼくの上では、ぼくの悪口がとびかっていた。

 すばらしい目覚めだ——


 ぼくはそうっと手を挙げた。


「あのーー。すみません」

「あ、目が覚めた」

「ぼく、どうやってあの森から?」


「わしが、空中を飛ばして、連れ戻したんじゃよ」

 ロランがぼくの顔を上から覗き込んできた。


「それにしても、トンでもないスキルで、みごとに森を焼き払ったもんじゃ」


 顔を横にむけると、そこに森はなかった。


 燃え残った木々がすこしは残っていたけど、はるかむこうまで見通せるほどにまで、なんにもなくなっていた。


「ベクトール様。ありがとうございました」

 今度は村長が顔をのぞかせてきた。

「おかげでやっと隣村と行ききができるようになりました。いま、若い者が隣村にむかっております」


「役にたててよかったです」


「お礼といってはなんですが、感謝の気持ちをこめて、みなさまのパーティーの団旗を作らせていただきました」


 村長がそういうと、数人の女性がおおきな布をもってきた。


「どうでしょうか?」


 両側にひらいて見せた。

 ドラゴンがあしらわれた、荒々しさと、高貴さを感じさせるデザインだった。


「うわぁ、いいじゃないですか」


 おもわず叫んだ——

 でも、そこに記されたロゴに目がとまる。 


 アリス・パーティー——


「どういうこと?。なんで『アリ・トール』パーティーじゃないの?」

 ぼくはアリスをにらみつけた。


「なーーーんか、村長さん、まちがえちゃったみたぁーーい」

 アリスは舌をぺろりとだして、片目をつぶってみせた。




 やっぱ、この子は、さらさら髪で、おっぱいがおおきくて、スタイル抜群で、ちょっと気配りができるだけの、ブッサイクだ!

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