第4話 異世界ユニーク・スキルを手に入れる

 ぼくは一斉に襲ってきた怪物にむかって、フックをひいた。


 パン、パン、パン!


 おもしろいように、怪物が倒れていく。


 まるで魔法だ!



 だけど20回ちかくフックをひいたところで、突然、相手が倒れなくなった。

 たぶん、魔法にも限界があるのだろう。

 ぼくは使い終わったヤツを投げ捨てると、足元にある別のモノを拾ってかまえた。


 パン!


 クマの頭半分がはじけとぶ。


 パン!


 トラの眉間が赤く染まる。


 パン!


 ヘビ。ちっ。こいつはうねうね動いてあたらない——


 だけどぼくはフックをひきまくった。

 3個目に代えたところで、頭ではなく、腹か心臓を狙ったほうがいいことに気づいた。


 パン、パン、パン、パン、パン、パン……


 からだの位置をかえながら、迫ってくる【アレ】を立て続けに倒しまくる。

 アリスはぼくのうしろで、服をつかんだままつかず離れず、ぼくに歩調をあわせている。


 たぶん20個目くらいの武器を取りあげたところで、次にやっつけるべき【アレ】がいなくなってることに気づいた。


 あたりには、かいだことのない、煙の臭いがただよっていた。


 深呼吸をしてみる。


 むせ返るような焦げくさい臭い。


 だけど——

 いまのぼくにはすがすがしく感じられた。


 これは勝利の匂いだ。


「アリス。やったよ。ぼく」


 ほこらしげにうしろをふりむくと、アリスは黒い物体を拾いあげて、なにかを見ていた。


「きみ、これが、なにかわかるのかい?」

「うん、ちょっとだけね。わたしの『千里眼』の力は、異世界の文字や文化も一緒に知ることができるの。ほんのわずかな情報だけど……」

「で、なんて書いてあった?」


「G・L・O・C・K……? これ…… たぶん『ケンジュウ』っていうヤツ……」


 こいつをぼくがどこから『取り寄せアポーツ』したのか、見当もつかない。 

 おそらくとんでもなく科学や文明が進んだ『異世界』なのだと思う。


 この世界は剣と魔法に支配された世界——

 文明がもたらす機械なんか、無用にする万能世界だ。


 だけど、この『ケンジュウ』はその剣や魔法のような力をもっていた。

 『ケンジュウ』っていうのが、どれほど使えるのか、ぼくには見当もつかない。

 でもこれはまちがいなく、ぼくのスキルになった。


 小躍りしたくなるほど、うれしかった——


 手放したくない!


「アリス!」

 気づくとぼくはアリスの手を握っていた。


「ぼくは…… きみがほしい」


 アリスの顔が一瞬でまっかになった。

 ぼくはとんでもないことを、口走っていたことに気づいた。


「あ、いや…… ちがう、そういう意味じゃ……」


「あんた、こんな森のなかで、いきなり口説くってぇ…… どういうつもりぃぃ」


 アリスがぼくの手をふりほどこうとする。


「あ、いや、誤解だ。ちがうんだって……」


 ぼくはアリスにふりほどかれまいと、手にちからをいれる。


「まわりに誰もいないからって…… 出会ったばかりでぇぇぇ」


「だ、だから、ちがうんだ」



 この手ははなさない——



「ぼくと一緒にパーティーをくまないか……って……」


 アリスの抵抗がとまった。

「パー……ティー……を?」



「きみは今、きみのパーティーをうしなった……」

 


 ぜったいにこの手をはなさない——



「ぼくなら、きみのスキルを最大限にいかすことができる……」


 くさいセリフ。わかってる。

 でもぼくの野望のために、この子のスキルを手放すわけにはいかない—— 



「アリス。ベクトール・パーティーに参加してほしい!」




「うそでしょ?」



 アリスはそう言って、今度は本気でぼくの手をふりはらった。




「なんでパーティー名が、あなたの名前なの?」


「へ?」


「どーー考えたって、わたしの名前、アリスを冠した『アリス・パーティー』でしょう? だってあたしのほうが、格上パーティーにいたんだから」



 もう余裕で過去形にしているぅぅぅぅぅ。

 この子、こわいーーー



「ぼくだって、バイアス・パーティーに……」

「しらなーい。聞いたこともなぁーーい!」

 

 んぎぎぎぎぎぎぎ……

 くいぎみで否定ですか。



「いや、でも女の子のなまえの団名なんて……」

「ひっどぉぉぉい。ベクトールって、性差別主義なんだぁぁ」

「あ、いや、そうじゃな……」

「んじゃあ、妥協して『アリ・トール・パーティー』にしてやってもいいわよ」



 んぎぎぎぎぎぎ……


 だ・き・ょ・う・って——



 こ・の・く・そ・お・ん・なぁぁ!!


 あぁ、ほんとうにくそ女だ!

 それによくみるとブサイクだ!


 さらさらとした青い髪に、くりくりとした大きな目をして、ついキスしたくなるような、柔らかそうなくちびるをしている、ブスだぁぁぁぁ。


 からだはスレンダーなのに、不釣り合いなほどおおきな胸して、まるでポロポロ国のホルブタインかってぇの!!


 おしりはおおきく張りだしてるくせに、足はながくて、ほそくて、しなやか——




 ほんとーーに、みにくい、ったらありゃしないっつ!



「で、どーするのよ!」


 んきぎぎぎぎぎ……

 このブスぅぅぅめぇぇぇぇぇぇぇ


「ベクトール! どすんの?」



「はい……」


「アリ・トール・パーティーで、お願いします」




 はやくもぼくの野望は潰えた——

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