第5話 魔導士ロラン現る

「ほう、どういうことじゃ。『ナンゴリア』が全部死んでおるぞ」


 うしろから子供の声がした。


 そこにいたのはなんとも仰々しい柄のローブを着た幼女だった。


 ぱっと見た目で10歳くらい——



「おい。おぬし、答えをきいてやってもいいぞ。この怪物を倒したのは、おぬしか?」


 あきらかにぼくをみている。


「答えをきいてやってもいいといっておるのじゃ。はやく質問に答えよ」



 どーいうこと?

 なぜ、上から目線—— 初対面だってぇのに。

 しかも、こんな夜中に。とんでもなく物騒な森のなかで……


 ぼくは顔をそむけて無視することにした。


「やれやれ…… 教えてくれんのか——」


 その子の手にもっていたツエの頭が、ぼうっと光りはじめた。

 じつにあやしい光——


「じゃあ、この世から消してもいいな」



 はぁーーーーーーー?



「アリス。この子なに言ってン……」



 いないし………



 アリスの姿はどこにもなかった。

 

 え、どーーーーいうこと?


 しかも、なんか、ツエの先がメチャクチャ光りだしてるぅぅぅぅl



「ちょ、ちょっと、まったぁぁぁぁ!」



「お、なんじゃ、口がきけるではないか。で、この怪物を倒したのはおぬしか? 答えをきいてやってもいいぞ」

「だから、なぜそんなにえらそうに…… だいたい、人にものをたずねるのに、名前を名のらないなんて、失礼でしょう」

「おぬしこそ、答えをきいてやる、という者に、名を名のらないとは失礼ではないか」

「あ、そうですね、すみません。ぼくはベクトールと言います。ーーって、ちがーーう!」


「ふむ、ベクトールか…… 我が名はロランじゃ。とくべつに名のってやったぞ。小一時間ほどひれ伏して、貢ぎ物のひとつも捧げるがいい」



 どんだけ高貴な名前だよーー



「おぬし、戦闘レベルが低いのに、ずいぶんえらそうなヤツじゃのう」


「どーいうことだよ!」


「わしは人間の戦闘能力を『数値』でみることができるのじゃ。たとえばさっきまで、ここにおったオンナ。あやつは戦闘レベル『7』しかありゃあせん。逃げて当然じゃ。すでに1キロメルト先まで行っとるぞ」


 1キロメルトって!!! どんだけゴン逃げしてンだよぉぉ。


「じゃあ、あんたはいくつなんだ?」



「レベル3000」




 3000!!! エグっ!! 



「あのう、すみません、ぼくは……ぼくはいくつでしょう?」


 恥ずかしい話だけど、いつのまにか手もみしている。




「おぬしか? おぬしは、0・735。ま、ゴミ虫レベルじゃな」


 いや小数点って!


 もう、いっそ『0』のほうに、ふりきってくれないっすか——



「で、答えをきいてやってもいいが、こいつはおぬしが倒したのか?」


 ぼくはかるく挙手した。


「はい。このゴミ虫めが倒しましたぁ」


 ロランの目が大きくひらいた。


「どうやってじゃ?」



 ぼくはうやうやしく手をかかげて、『ケンジュウ』をロランのほうへさしだした。

「この武器でです」


 ロランがごくりと唾をのみこんだ。


「これは……」

「ご存知なのですか」

「あ……あぁ……」


 ロランはかるく咳払いしてから言った。


「こ、これは。そう、『ブンチン』といって、ここに指をとおして回すのじゃ」




 ぜってぇー、うそジャン


 しかも、完全に目が泳ぎまくってるしぃぃ——




 ぼくはため息をついた。


「レベル3000の魔導士様でもわからないようですね」


 これがどこからきたのか、フックをひくだけでなぜ怪物を倒せるのか、わからないことだらけだったので教えてもらいたかった。



「いや、そんなことはないぞ。じつはそれは『ゴーキブリ』といって……」



「いや、もういいです。ぼくはアリスを探しにいきます」



「この地面に積みあがっている、こいつはどうするつもりじゃ。いらぬならもらうぞ」


「そうですね。せっかく手に入れた、ぼくのスキル。放置するわけにもいきません」

 ぼくは銃が積みあがった場所にいって、地面に手をむけた。


 力をこめる。


 瞬時に地面にぽっかりと黒い穴があいて、銃がずぶずぶと地面のなかに沈んでいった。



「なにをしたのじゃ?」


送り込みアスポーツです。ぼくのスキル、取り寄せアポーツを逆にして、別の場所に移したんです」


「どこにじゃ?」

「ぼくだけの秘密の隠し場所です。そこからなら、いつでも取りだせます」

「ふむ、興味ぶかいスキルじゃの」


 ロランはそう言うなり、ツエを上にむけてぶんとふった。


 たぶん、なにかの魔法を使ったにちがいない。


 耳をすます。 

 なにも聞こえない。


 あたりの気配に神経をとぎすます。

 なんにも変わらない。



「あのぉ……ロランさん、何もおきないん……」




 きゃぁぁぁああああああああああ————



 と、はるかかなたから、たなびくような悲鳴が聞こえてきた。


 はるか森のむこうから、アリスが飛んでくる。


 かわいい、もとい、ブサイクな顔が、恐怖にひきつっている。


 みるみるうちに、その姿がこちらに近づいてきたかと思うと、ぼくらの目の前の草むらに、お尻から着地すると、ごろごろと転がった。


「いったぁぁぁぁい」


「アリス。大丈夫かい?」


「ベクトール!! これが、大丈夫にみえるっっ!?」


 ソッコー、逃げといて、しかも『絶対的安全圏』にまで逃げといて、なぜ、その高飛車っぷり?


「おい、そこのオンナ!」


 ロランが声をかけると、アリスは目にもとまらないスピードで、ぼくのうしろにまわりこんだ。





「ベクトール。そ、その子なのよ。あのバケモノを操ってたのは……」

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