第209話 選ぶのは悩ましい
あちこちから集めた大量の琥珀を並べ、イヴリースは悩んでいた。愛する婚約者の身を飾る宝石だ。正確には石ではなく、樹液の結晶なのだが……大きさを重視するか。色合いを重視するか。
悩ましい問題に直面し、膝の上に横向きに座らせたアゼリアに、当てては外す繰り返しだった。色は飴色が似合う。顔立ちが華やかな分、濃いめの色でないと負けてしまう。首飾りや耳飾りは強い飴色を配色し、逆に髪には薄い黄色を選んだら金の地金が映えるのではないか。
いや、統一感を持たせて同じ色合いを揃えるべきか。
「イヴリース、私、この色がいいわ。これで首飾りを作ってちょうだい」
いつまでも進まない状況に、アゼリアは自ら動いた。淡い金色に見える琥珀だ。中に蝶が閉じ込められた珍しいものだった。
「大きさもあるし、これを中央に置いて、周りをグラデーションにしたらどうかしら」
向かいで話を聞いていたデザイナーが、大慌てでメモを取る。そのままデザイン画を描き始めた。濃淡を使い分ける方法は、アゼリアの赤毛を華やかに彩る。描かれる首飾りの絵に、イヴリースも頷いた。
「そなたの希望に沿うよう作らせよう」
「あと、耳飾りは垂れ下がるタイプがいいの。動くと揺れてキラキラして……徐々に粒の大きさが変わるのがいいわ」
首飾りは色のグラデーション中心に、耳飾りはサイズを変えながら揺らす。斬新なデザイン案に、デザイナーは大喜びだった。今すぐに取り掛かると言い残し、いそいそと退室する。見送ってから、アゼリアが「あっ」と声を上げた。
「いかがした?」
「髪飾りはお任せして大丈夫かしら」
「後でデザイン画を提出させるゆえ、問題ない。あとは指輪だが……」
これは琥珀ではない。夫となる魔王を象徴する蒼玉――サファイア――を使用するのが慣わしだった。魔王は己の色に関係なく、国名にちなんでサファイアを身に纏う。その宝石を与えられるのが、妻となる王妃だった。
魔王は妃の象徴石を飾りとして身につける。互いの象徴石を交換する形だった。指輪にこだわる必要はなく、先代魔王は大きな石から輪を削らせ、魔法で耳に穴を開けて通したという。数代前には額に埋め込んだ魔王も記録されていた。
「指輪、楽しみだわ」
笑うアゼリアに、イヴリースも穏やかに微笑み返した。番に対する愛情が深い魔王イヴリースが、一般的な指輪を選んだ理由は……アゼリアの一言だった。
人間の結婚式では、教会で指輪を交換する。うっとりしながら、彼女はそう呟いた。憧れを多分に含んだ声に、イヴリースの中で選択肢は指輪ひとつに絞られる。それ以外は考えられなくなった。
「最上級のサファイアを削らせよう」
「ありがとう」
ちゅっと頬にキスをして、それからゆっくり唇を合わせた。まだ舌を絡めるキスは恥ずかしい。アゼリアのペースに合わせ、何度か触れて離れるキスをした。
幸せいっぱいのアゼリアだが、魔王という権力者に指輪を作らせるとどうなるか――その恐ろしいまでの重い愛を知るのは、数ヶ月後だった。
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