第201話 それは自供ですね
薄暗いのは地下室のせいだろう。かろうじて灯りにより明るさを保つ牢に、似付かわしくない服装の男が立っていた。このシーンから始まる映像は、隠し撮りだろう。向かい側の牢に固定された魔道具は、男2人の尻や背を大きく映しだす。
『悪いが死んでもらう』
男達が動く。映ったのはゾンマーフェルト侯爵だった。後ろ姿だが間違いない。わずかに顔を動かして、後ろの男に指示を出す。その際に横顔がしっかり映った。
『余計なことを知りすぎた』
震える料理人が収監された牢の入り口を、後ろから現れた男が開ける。手にした鍵で錠を解除した。牢の鍵は大きな輪にすべての部屋の鍵がついている。しかし使った鍵は合鍵らしい。単独で鍵を持ち、左へ回すとあっさり鉄格子の扉が開いた。
『やめてくれ、何もしゃべらない。俺は……うわぁああ!』
ずりずりと下がっていく料理人へ、無慈悲に短剣が突き立てられる。銀の刃が胸を貫き、痙攣する料理人が動かなくなった。囚人に与えられる灰色の服が、赤く染まっていく。
『これでご主人様の障害は消えました』
一礼する執事の顔に、一部の貴族が反応した。ゾンマーフェルト侯爵家を訪問したことがあるご令嬢の中からも、息を飲む者が現れる。
悪事を働く際、関わる人間を増やすほどバレる危険性が高まる。そういった意味で、黒幕本人と執事しか登場しないのは、賢い選択だった。彼らが互いに裏切らなければ、悪事の蜜月は保たれる。今回のように、記録されなければ……だが。
「なぜだ、お前の
「ほう……死を確認、ですか? それは自供ですね」
メフィストが軽く尋ねる。慌てた様子で侯爵が口を噤んだ。しかしこの場の王侯貴族は聞いている。今さら取り消しは通用しなかった。
「その料理人の
生きているわけがない。大量の血が流れて、脈が停止したのを確かめたのだから。口から泡を吹きながら抗議する男へ、メフィストは穏やかな口調で種明かしを始めた。
「料理人は本物です。あなたが王妃殿下の毒殺を指示した料理人で間違いありません。ですが殺された被害者と証人は……別人でした。当然でしょう。獣人があれほどの刺し傷を負えば、死んでしまいますからね。安全な我がサフィロス国で証人を保護しました」
魔王城の地下牢で保護した。これは事実で、否定する必要はない部分だ。牢を管理するメフィストの許可がなければ、ゴエティアすら近づけない牢に入れた。
「やっぱり! 俺は嵌められたんだぁ!!」
取り繕った貴族の仮面にヒビが入った。一人称すら変わっている。罪を認めない男の下品な口調や振る舞いに、貴族達が眉を寄せた。罪人であれば己の罪を認め、素直に謝罪した方が家や親族も救われるというのに。
殺したことを肯定した挙句、その理由が王妃殺害未遂の証人への口封じなのだ。獣人達にとって、到底許せる状況ではなかった。
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