第200話 証人は初舞台を踏む
「あなたは、その瓶の中身を知っていますか?」
一度覚悟を決めたからか、証言する料理人は淀みなく答える。
「はい、毒薬です」
「ほう……なぜ毒だと思ったのですか」
メフィストの尋ね方は、核心をずらした位置から攻めてくる。この男のやり方をよく知る、イヴリースの口元が笑みに歪んだ。
「毒を盛ると言われたからです」
「なるほど。それをスープに入れましたか?」
「は、はい。殺すと脅され、入れました。ですが、手が震えて瓶を落とし、
割れたのではない、割ったのだ。つまり料理人は脅されて従ったが、ぎりぎりのところで踏みとどまった。微量の毒が入ったスープは、王妃の命を仮死状態にとどめ……何らかの刺激で息を吹き返したと思われる。
「故意に割ったのですね。ご立派です。誰から瓶を受け取りましたか?」
「ゾンマーフェルト侯爵様の執事です。侯爵様ご自身の前で受け取りました」
ここで檻の中にいる侯爵が暴れた。音は遮断されているが、ジタバタと手旗信号のように何か伝えようとした。
「メフィスト殿、ここで被告の言い訳を聞いてみてはいかがでしょう」
ベルンハルトが穏やかな口調で促す。舞台はまだ幕が上がったばかり。断罪シーンまで引っ張るには、もう少し彩りが必要だ。残酷な笑みを浮かべた甥に、国王ノアールは顔を引き攣らせた。
満足げに同意するカサンドラ。姑になる彼女と笑い合うヴィルヘルミーナ。どちらも女性は恐ろしいとノアールは背筋が凍る思いを味わった。舞台上安全な位置にいるのに、被告席に座った気持ちだ。
「そうですね。反論の機会は与えてもいいでしょう」
ぱちんとキザな所作で指を鳴らすと、ゾンマーフェルト侯爵の声が広間に響いた。
「そいつは嘘つきだ! 私は知らんぞ! こんな男
「初めて?」
きょとんとした顔でアゼリアが首を傾げる。それから記憶をさらい、間違いないと頷く。
「初めてのはずがないわ。だって、牢にいらしたんでしょう?」
「な、何の証拠がっ!?」
喚く侯爵から庇うように前に立ったイヴリースが、魔法陣をひとつ床に投げた。そこに記された名はゼパル。召喚魔法陣が発動して呼び出された男は、肩にペットの蜥蜴を乗せていた。
「証拠を見せてやれ」
「承知しました」
ゼパルは手にした魔道具を床に置き、右手を左から右へ大きく振った。その動きに合わせ、大きな窓のカーテンがすべて閉まっていく。薄暗くなった広間に、魔道具の光が浮かび上がった。
「これは俺が入ってた牢の状況です。血腥い表現がありますんで、気の弱い方はお気をつけください」
芝居上演の注意に似た文言を口にすると、一部の女性が扇で顔を覆った。賢い選択だろう。興味や好奇心が先に立つ者の方が多いのは、獣人の国ならではだった。
「ではご覧ください」
芝居がかった所作で一礼する。ゼパルの魔力が込められた記録魔道具から、音声と映像が流れ始めた。
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