第192話 王女という厄介な火種
「修道院へ入れて二度と世俗に触れない……これ以上の騒動は起こさせないのでなんとか」
穏やかに事を収めて欲しい。矛先を収めてもらえないか。持て余しているとはいえ、娘である事実は変わらない。王太子のように立派に育てられなかったのは、親の責任だ。そう擁護する国王へ、メフィストは不思議そうな目を向けた。
魔族にとっても、血族を絶やさないことは重要だ。己の誇りや魔術を引き継ぐ子孫は、それなりに重要視される。だが、使えない上に他国に迷惑をかけ、一族の名を汚す者を擁護する習慣はなかった。
「使えないのに、甘やかすのですか?」
本心から出た疑問だった。驚きすぎて他に言葉が出てこない。
クリスタ国のカサンドラ達を思い浮かべる。魔王に見初められた娘は自慢だろう。国王となり血を繋ぐ息子も価値がある。だがそこに我が侭で邪魔にしかならない弟妹がいたとして、彼女らは人間のように擁護するだろうか。
育て損ねた責任を痛感し、他国に迷惑をかけた自覚があるなら、このような甘い処罰はあり得ない。修道院へ入れることは、神の妻になる意味だ。つまり宗教的に第三者との結婚を諦めさせ、閉ざされた檻で飼い殺しにする。
甘やかされた王女が我慢できる環境ではない。苦しめるなら早めに止めを刺すのも親の愛ではないか? ぐるぐると頭の中で浮かんでは消える疑問を、そのままぶつけた。
「修道院で大人しくなる女性ではありません。慎ましく暮らす修道女達に我が侭を振りかざし、実家の権威を利用して騒ぐでしょう。万が一にも彼女が他国の男と子を成せば、後の禍いとなるのですよ?」
彼女が女性という点もまずかった。男ならば落胤という形で子供が名乗り出ても、否定することは可能だった。どんなに似ていても、相手の女性が他の男の種をもらった可能性を否定できないからだ。しかし王女の場合は話が違う。
彼女自身の腹から出たという事実があれば、王家の血を引くことを否定できない。何らかの貴族位を与える必要が出てくるだろう。その子供は将来に渡って王家を揺るがす害虫となり得た。
そこまで説明しなくても、国王と王弟クリストフは理解した。青ざめていく彼らの脳裏を過るのは、息子や孫の代になって王家の土台を食い荒らす幻だ。限りなく現実になる可能性が高い。
あのアクアマリン王女は、我が侭で自分勝手だ。裏を返せば、ちょっと煽てて褒めればその気になって動く。何より女性が子を宿すのに同意は不要という、危険な考えも浮かんでいた。
薬で無理やり勃たせても、男は子が出来にくい。メンタル面が伴わない性行為での妊娠確率が低いのは知られていた。だが女性の場合は話が別だ。中に、奥深くに注がれれば眠った状態でも孕む可能性はあった。
「
命を奪う方法が嫌なら、子が出来ぬようにすればいい。彼女だけなら王城の敷地で飼い殺すことも可能でしょう。魔族の宰相らしい残酷な選択肢を与え、メフィストは反応を窺った。
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