第162話 国王の表敬訪問におまけ
義勇兵が手柄を立てて帰ってくる。派遣した先がクリスタ国なのに、なぜかベリル国の国王からの感謝されたが。その辺は同盟国なのだから、深い事情があるのだろう。
祝典の準備に忙しい国王ノアールは、背筋をぞくりと走った嫌な予感に首をかしげた。甥が婚約したヴィルヘルミーナ公爵令嬢が、また何か騒動を起こしたのか。魔国から侵入した犯罪者撃退の際は、それはそれは大活躍した。
嫁の貰い手がなくなると公爵が泣きながら情報操作を依頼するほど、敵の哀れな末路は男性達の同情を誘った。兎耳がついた美しいご令嬢を前に滾るのはわかる。許せるかどうかは別として、求愛したくなる気持ちは獣国の者達も理解した。
問題はご令嬢が選んだ報復手段だ。相手を再起不能にする必要があったのか。問われたヴィルヘルミーナの返答は、女性達が大きく頷くものだった。曰く「傷物にされたと噂の立った高位貴族の令嬢は、修道院くらいしか貰い手がなくなりますわ。人生がかかっておりますの」と。
正論だ、間違ってはいない。だが……男としてやはり恐怖を感じざるを得ない。女性達は正当防衛として支持したため、妻や母に逆らえない男達は口を噤むしかなかった。基本的に獣人は獣の本能が残っており、どうしても女性の意見が強く通りやすいのだ。
大貴族の令嬢で王家の血を引いていても、これでは彼女の貰い手が見つからない。国内での嫁入りは無理かと思っていた矢先、姉の息子クリスタ国王との婚約が調ったのは運がよかった。
「クリスタ国王ベルンハルト陛下がお見えです」
案内の声に、ノアールは慌てて玉座に腰を下ろした。自国のアンヌンツィアータ公爵令嬢ヴィルヘルミーナと腕を組み、優雅に一礼する。叔父と甥だが、国王同士でもある。複雑な関係に一瞬考えるが、すぐに立ち上がって甥として歓迎した。
「よく参られた、姉上や義兄上はお元気だろうか。此度は甥であるそなたを迎えられ……」
「叔父様、私も参りましたの」
ふわっと広間に転移して現れたのは、姪のアゼリアと魔王だった。成長してから顔を見たことはないが、絵姿は知っている。若い頃のカサンドラに瓜二つの顔立ちはもちろん、見事な狐耳や尻尾は見間違いようがなかった。
「アゼリア、か!」
「はい、それと婚約者の……」
「魔国サフィロス王イヴリースだ」
紹介される前に名乗った黒髪の青年は、この場の誰より長生きしている。魔王として名を知られた実力者の侵入は、ルベウス国にとって脅威だった。本来は王城内に張られた結界が弾くはずなのだが、上手に隙間を縫って入り込まれたらしい。
「結界が……あっただろう?」
「あの程度の防壁など無意味だ。近々同盟を結ぶのだから、ゴエティアの誰かを派遣しよう」
「素敵! イヴリースは心が広いのね。クリスタやベリルにも派遣してくれる?」
「当然だ。我が番の求めならばなんなりと」
恐怖を撒き散らす恐ろしい男だと言われてきたが、当代の魔王は姪に惚れている。制御は可能らしい。魔法に関しては魔族がもっとも優れているため、彼らの助力を得られるのは大歓迎だった。
問題は魔王自身は出入り自由になることだが……その点は姪の手腕に賭けるしかない。彼女とは姉を通じて良好な関係を築こう。無能ではないノアールは覚悟を決めた。
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