第130話 森を進軍する獣を叩け
中央の街道を開けて散らばったゴエティア達は、森の中を進軍する連中を見つけて肩を竦める。なぜバレずに近づけると思ったのか。索敵を得意とするアモンが風を操る。
冷たい風が吹いた森は、ほぼ丸裸だった。ラミアは下半身が蛇の魔族だ。上半身は美しい女性の姿で、茂みに隠れて男を誘惑する……人間が知るラミアの習性はその程度だろう。だが彼女らは森の守護者でもあった。
森の木々を通じて、風を操ることで状況を把握する能力が高い。将軍バールの隣で軽く目を伏せて風を読み取ったアモンは、ラミアとしての能力を拡散した。
「あ、陛下が動かれた」
「え? 本当だわ。あの剣を召喚されたのね」
魔王イヴリースの傍に現れた魔力に、黒い剣を思い浮かべたバールの口元が緩む。玉座の脇に無造作に置かれた剣は、建国以来サフィロスの王が受け継いできた。魔王を象徴する剣の鞘は、王の許可なしで刃を見せることはない。
「そんな強い敵がいたかしら」
アモンの疑問へ、護衛を兼ねたマルバスが肩を竦める。近接戦闘を得意とするマルバスは、索敵や遠隔魔法を得意とするアモンの護衛であり恋人だった。
「陛下のことだから、見せびらかしたんじゃないか?」
「表現が悪いわ、マルバス。魔王の権威を見せつけたのよ」
言い直したバールが合図を出す。派手な狼煙も動きもいらない。直接伝えられた魔力によるサインに、森へ散った同族が動き出した。魔王軍の精鋭にとって、日常業務の魔物狩りより簡単な戦だ。
火の手が上がったのは左側だ。派手に燃えているように見えるが、あれは幻影だった。怯えて逃げ回る人間を押し戻す。幻覚でも十分に数を削ぐことが可能だった。脳が本物だと錯覚すれば、存在しない熱に焼かれ溶け落ちる。炎が移って転げ回る人間を見れば、混乱してさらに被害が広がった。
「ボティスは派手ね」
苦笑いするバールは、足元まで近づいた獲物のために剣を抜く。主君が剣を抜いたなら、彼の盾であり剣である将軍が魔法で戦うのは邪道よね。そう嘯いて愛用の剣を抜いた。長くがっしりとした刃に、魔法文字がびっしりと浮き上がる。まるで模様のように絡まった複雑な形は、脈打つように動いた。
「うわっ……人間相手にえげつなぁ」
マルバスの感想を無視し、バールは扇情的な姿で人間達の前に降り立った。戦場に立つとは思えない、露出度の高い鎧は無防備に腹部を晒す。まるで水着のように、最低限の部位のみ覆った軽装に見えた。下に纏う衣装も軍服ではなく、鎧に合わせた薄く飾りっ気の多いデザインだ。
女性としての魅力を強調するが、王族の後ろに立つ飾り彫刻のような姿だった。
「……やる気ね」
軍服姿のバールは禁欲的なまでに肌を見せない。だが今の姿は目の毒だった。胸元は多少寂しいが、肉付きのよい尻や太腿が見え隠れする。
「女だ」
「軽装だが……まさか」
「俺らと戦うのか?」
「捕まえたら自由に出来る。生け捕りだ!」
当然とも言える判断だった。肌も露わな美女が、戦場に現れることなどない。舌舐めずりする男達に、バールは剣先を向けた。
「勝てるならどうぞ」
挑発的な彼女の言葉に、森を進軍した獣が一斉に飛びかかった。
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