第108話 犯罪じゃないのか!?
「ベルンハルトのお嫁さんが決まったわ!!」
浮かれたカサンドラの発表に、当事者なのに何も知らされなかったベルンハルトが目を見開く。
「えええ! 私が探したかったのに」
がっかりして項垂れるアゼリアだが、すかさず抱き締めるイヴリースが「よしよし」と甘やかす。当たり前のように娘の隣に陣取る魔王に、アウグストは歯噛みする。しかし妻のカサンドラに窘められて、甘えるように彼女を引き寄せた。
やたらと仲のいい父母と、妹と婚約者……間に挟まれる独り身のベルンハルトは溜め息をついた。まさかとは思うが、年の離れた弟妹が出来るかも知れない。覚悟だけはしておこう。場合によっては俺の養子にしてもいいか。そうしたら子供を作らなくていいから、俺は結婚しなくて済むんじゃないか?
子孫に家名や領地を引き継ぐことは、王侯貴族最大の義務だった。もちろん民を守り繁栄させることも重要だが、義務と考えるなら現状維持できれば文句は言われない。
絵姿と釣り書きが向かい合う本のような1冊は、豪華な装丁が施されていた。どうやら金に困った実家が娘を売ったわけではないらしい。見も知らぬ女性を妻として迎えることに抵抗のあるベルンハルトは、現実逃避を兼ねて窓の外へ目を向けた。
「ベル、こちらにきて確認して」
「そうよ、兄様。すごく可愛らしい方よ」
目を輝かせる母と妹をよそに、ベルンハルトは気乗りしなかった。見たことさえないご令嬢に失礼だが、誰でも同じなのだ。恋愛の経験がない彼にとって、家族以上に愛情を注げる相手は想像外だ。そんな人がみつかるわけない。そう思いながら、仕方なく立ち上がった。
「アゼリアより可愛い者など、世の中に存在しないぞ」
「カサンドラもいる!!」
「二番手だ」
「なんだと!?」
互いの番を自慢してケンカする大人げない魔王と竜殺しの英雄の隣をすり抜けた。この2人が本気でケンカしたら領地など一瞬で吹き飛ぶだろう。その前に、我がヘーファーマイアー家最強の妹が立ちはだかるか。
溜め息をつきそうになって飲み込み、なぜか絵姿を誇らしげに差し出す妹から受け取った。ソファに座ってじっくり眺める。アゼリアの言葉通り愛らしい姿をしているが……これは犯罪じゃないのか? 顔を上げると正面で母がにこにこと釣り書きの一部を指し示した。
「ヴィルヘルミーナ嬢、ですか。18歳……18っ!?」
犯罪ではなかった。外見の絵姿がここ最近のものであるのは間違いないが、12歳前後に見えた。いくら王族との政略結婚でも可哀想ではないかと同情した気持ちの落としどころは、どこに見つけたらよいのか。
「本当に、年齢は合ってますか!?」
「ええ。ベルにぴったりのお嫁さんが見つかってよかったわ。彼女、ルベウス国の公爵令嬢なの。私のお祖母様からみてひ孫ね」
家柄は申し分なく、国同士の繋がりを考えてもバランスがいい。唸るベルンハルトだが、この婚約はほぼ決定事項だと思われた。しかし……外見が幼すぎる。
「お会いするまで、保留させてください」
そう絞り出すのがやっとだった。
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