第57話 許しはないと確信した
「おや、魔王軍の上位陣がお揃いですね」
メフィストは牢の中を順番に覗き、捕らえた獲物の保管状態に頷いた。点検を終えるのを待って、バールは疑問をぶつける。
「ねえ、どうして人間をここに確保するのよ」
少し考えて、メフィストは選んだ言葉を口にした。すべてを知らせる必要はない。うっかり妙なことを口走ると、彼女らが暴走する可能性もあった。人間すべてを滅ぼすのは、主君の意向に沿わない行動なのだから。
「陛下の番様が見つかった話はしましたが、その先を少しご説明します」
前置いて、長い話を手短にまとめた。番のアゼリアはこの王太子の婚約者だったこと。勘違いから婚約を人前で破棄したこと。その後に彼女を取り戻そうと攻めてきたこと。合間に蛇女と渾名されるメドゥサが攻撃をしかけ、そのせいでイヴリースの機嫌がわるいこと。
簡潔にまとめた話を終えたメフィストは、これ見よがしに溜め息をついた。
「陛下は穏やかな方だと誤解されますが……あなた方は理解しているでしょう?」
普段は穏健派のような顔で、多少の無礼や攻撃も笑顔で受け流す人だが、本性は真逆だった。誰より残虐で強い。そうでなければ、穏やかなだけの魔王に魔王軍が結成されるわけがない。かの人の手を煩わせないため、自主的に集まった魔族による彼の親衛隊なのだ。
弱肉強食が信条の上位魔族を心酔させるだけの魅力も、実力も兼ね備えた魔王だった。バールはちらりとメフィストを伺う。魔王位を狙える位置にいた気位の高いこの男が、あっさりと膝を折った。この現実こそ、イヴリースの実力の証明だ。
「幸いにして、番様は獣の第三形態を受け入れてくださいました。イヴリース様の溺愛が加速するのは間違いありません」
前提条件を再度確認する。頷いた彼と彼女らに、メフィストは突きつけた。
「私は、溺愛する姫君に害を為そうと計画し、実行した者らを許す魔王陛下など――想像できません」
死なせるな、と命じられた。何も知らない人間から見れば、それは助かる可能性であり温情と受け止めるだろう。だが、魔王の残虐性を知る魔族達は、身を震わせて己の肩を抱く。
「だから……首を、繋げた……」
バールが絞り出した声は震えて掠れる。それを笑う者はいなかった。
無言で肯首したメフィストはそれ以上何も言わず、来た時と同じように姿を消した。残された3人は顔を見合わせ、牢の中の王太子を眺める。
首が短くなったことも気にならないほど、丸々と肥えたこの男の末路を思うと――ゾッとした。抱いた肩を撫でながら、きょろきょろと地下牢を見回す。
「寒い、わよね。上で……そう、お茶でも」
「え、ええ」
「そう、しよう」
相槌を打つアモンとマルバスを連れ、バールは魔王城の地下牢から外へ出た。地下牢より気温が低いのに、からりと晴れた空を見ただけで気が楽になる。安堵の息をついたのは、3人とも一緒だった。
「今日はテラスか庭にしませんか」
このメンバーで屋内で籠るのはやめよう。まだ恐怖で震える指先を誤魔化すように握ったアモンの提案に、反対する者はいなかった。
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