後日談94話、楽しい宴会?


 セイジとソフィアが結婚する。


 周りからすれば、やっとかという空気だった。だが、ソウヤ亡き後の銀の翼商会の面々にとっては、ここまで商会を支えてきた社長と頼れる姐さんが結ばれたということはめでたいことには違いなかった。


 催促も兼ねて訪れていたサジーだが、結果的にグラスニカ家をやきもきさせていた件が片付いたことで、正直ホッとしている。

 日時はこれからだが、結婚について両者合意となったことで、その日は商会メンバーをあげての宴会となった。


 いい職場だ、とサジーは思う。一時期、銀の翼商会と行動を共にしたことがあるが、今いるメンバーは、セイジとソフィアを中心に皆、仲がよく見ていて微笑ましくあった。

 あの頃にいたメンバー――ソウヤやミスト、レーラ、ライヤーなどがいなくて、その構成もだいぶ変わっているが、若い者は若い者たちで上手くやっているようだった。


 ちゃっかり部外者ながら関係者ではあるサジーも宴会に参加し、久しぶりに商会の美味い食事にありついた。

 妹と義弟との幸せを祈りつつ、すっかりいい気分になっていたサジーは、その後の二次会にも誘われ、そのまま参加した。


 一次会は全員で、二次会では男女それぞれ分かれて、飲み食いする。男女で飲みたい者は不参加で――というとソフィアとセイジは二人で……ということもなく、それぞれ男グループ、女グループにわかれた。

 宴会の中心、男は男で、女は女で、それぞれ主役をネタに祝福とからかいのタネとなるのである。


 サジーは当然ながら、セイジと同じく男グループでの二次会。一次会で酒が入っている面々もいれば、男しかいないとあって下世話な話から、大人な内容に移ることもまたお約束ではあった。


「――前々から思っていたんだけど、セイジの旦那って、姐さんのナカには出してなかったん?」

「おい、ナール、何を言うんだ?」


 セイジは慌てながら、顔を赤らめた。

 料理番のナールは、ここでは年長組である。普段から品のない面はあるが、下ネタを話させるとこうも似合う男というのもまた珍しい。


「だってぇ、旦那はここまでずっと同じ部屋で寝てるじゃんよー。結婚するまで清いままでいましょうね? だーれが信じますかってんだ!」

「ナール、少し飲み過ぎじゃないかな……」

「はい! 不肖このナール、酔っ払っておりまーす!」


 キリッと真顔で、しかし酔っ払っているナールの姿に周りは苦笑する。サジーもまた対岸の火事を見るが如く、「あはは」と小さく笑っていた。


「でぇ、そこんとこ、どうなのよ、旦那ぁ?」


 顔が緩み、品なくセイジに絡むナールである。


「ソフィアの姐さんは、誰もが羨む別嬪さんだ。あれと同じ部屋で毎日寝ていて、何もしないなんて、あり得ないっしょや。……シテるんでしょう?」

「まさか! してないよ」


 何のことかはわかっているようだが、セイジは否定している。しかし若さ故か、元来の生真面目さ故か、かなり動揺していた。


 ――初心うぶなんだな、義弟殿は。


 サジーはエールを一口。完全に他人事という顔である。セイジには悪いが、動揺すればするほど、酔っ払いたちは絡む。


「ウソだぁー! ぜったい、ヤッてる! あんな美人とヤッてないなんてあり得ない! それでも男なんですかっ、社長ぉ!」

「ね、ナール、落ち着こ」


 なだめるセイジ。ナールはそこで真顔になる。


「セイジ社長。……あんたまさか、本当にシテないの?」

「し、してないよ」

「ほんとにぃ……?」

「本当だって……。だってほら、君が言うように交わっていたら、今頃妊娠――」


 言いかけて、セイジは赤面度合いが半端なくなり、頭を振った。男たちはこの反応をどう受け取るべきかで迷った。

 つい口を滑らせて、ヤッていたことを白状してしまったのか、それとも、そういう男女の交わりについて話すだけで照れてしまうシャイボーイなのか。

 ナールは、後者と判断した。


「社長、まずいよ、それはぁ……。天下の銀の翼商会の社長が、童貞なのは」

「童貞……!」


 目が泳ぐセイジ。


「い、いやナール。それは商会とは関係ない……!」

「でも、抱いたことないんでしょ、女」


 じっと、ナールは品定めするような目を向ける。セイジは挙動不審になる。


「結婚するってのに、そこで男が女を優しくリードできなくてどうするんですか……! それはよろしくないってもんですぜ。……ねえ、サジーの旦那?」


 ――おっと、こちらへ飛び火したぞ。


 サジーは、しかし口を開いた。


「まあ、そうだな。誰しも最初は未経験ではあるだろうが、一応、その手の作法くらいは知っているのだろう、セイジ君?」

「さ、作法ですか……?」


 セイジが眉間にしわを寄せる。


 ――まさか、女性の抱き方を知らないのか、セイジ君!?


 結婚するまで未経験という者もいなくはない。だがやり方は家庭で教わるものだし、サジーも貴族の一員として教育係から座学は受けている。平民とて、親や大人が教えるものではないのか。

 ナールはジョッキ一杯を飲み干した。


「セイジの旦那は、未経験で、それを教える人がいなかったんすねぇ。そりゃあ仕方ない。ここらで一発、旦那には大人の階段をのぼってもらいやしょう。……野郎ども! 夜の店に行くぞぉ!」

「おおおっ!!」


 周りの男衆が歓声を上げた。お酒のノリって怖いな――と他人事を決め込むサジーだったが。


「サジーの旦那、ここは義兄になるあなたも付き合ってもらいますよ。義弟を導くのも兄の役割ってもんでしょ」

「お、おう……」


 ナールの勢いに、サジーはコクコクと頷いた。

 夜の店に行くというのは、つまりあれか――? それはまずくないか……。


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