後日談89話、帰ってくる者、迎える者


 銀の救護団からガルが消えた。

 その件は、聖女レーラを心配させたが、元カリュプスメンバーらは、意外にも落ち着いてはいた。

 その理由をレーラが尋ねれば、オダシューは答えた。


「ここまで探して手がかりもなく、かといって伝言もなかったことを考えると……ペルスコット家の方で何かあったんじゃないですかね」


 ペルスコット家――ガルが所属している暗殺者の一族。彼はその名を持っているが、実際の一族ではないという。


「何も言わずに消える、と言ったら、死んでなきゃそれくらいしか心当たりがないですからねぇ。あいつはあれで気配りの人間なんで、普通は伝言なり書き置きなり残していきます」


 それがないということは、大っぴらに言えないことである、と推測できる。


「家の事情ってやつです。ここまで来ると、それくらいしか考えられないですな」


 しばらく消えたままかもしれないし、ひょっこり帰ってくるかもしれない――と、オダシューは口にした。

 とにかく、ペルスコット家絡みのことならば、部外者が口を挟むべきではない。下手に首を突っ込めば、無用な争いを作る。


「それに悪い話ばかりじゃないかも。本当に家庭の事情かもしれないですし、それならオレらが手を出すのも迷惑でしょうし」

「……」

「東方の言葉に、果報は寝て待て、ってありますし、しばらく旅に出たと思って待ちましょうや」

「実際に旅に出ているようなものですけれど」


 レーラが言えば、オダシューは苦笑した。


「確かに!」

「魔王軍の残党を追っている、とか、そういうのはありませんか?」


 彼は、魔族に対して強い敵意を抱いている。特に魔王軍の残党と聞けば、周囲にその殺気が感じ取れるくらいには。


「それなら、オレたちに一言もなし、はあり得ないですな。黙っていなくなればレーラ様が心配することくらい、奴もわかっていますし。そういうの、嫌うタイプですから」


 そんな彼が、伝言もなくいなくなったというのが心配なのだけれど――レーラは思ったが、話がループしそうなので口を閉じた。


 言えない理由があっての蒸発。きちんと目的があり、彼の意思で行動しているのなら大丈夫なのだろう。

 しかし、わからないというのは、何とも居心地が悪く、落ち着かないものであった。



  ・  ・  ・



 などと悶々とした日々を過ごしていたら、唐突にガルが帰ってきた。


「ガル!」

「ご心配をおかけしました」


 まず開口一番、ガルは謝罪した。いつものように淡々とした表情ではあるのだが、そこでレーラは違和感をおぼえた。


 久しぶりに会ったせいか、ガルのようでガルとは少し雰囲気が違って見えた。これは何か心境の変化があったに違いない。銀の救護団を離れて、彼は何かを感じ取り、または成長したような感じだ。


「何か、言うことはありますか?」


 黙っていなくならなければいけない理由。レーラは知りたかったが、例のペルスコット家絡みの場合、家庭の事情だろうが、暗殺者一家の仕来りだろうが、首を突っ込むべきではない件の可能性があった。だから、ガルの口から言わせるのである。


「個人の都合というものでした。すみません」


 内容については、話す気はないというのがガルの答えだった。本当にプライベートな件か、部外者が知るべき情報ではないのか、その判断はつかないが、後者の可能性をオダシューから予め聞いていたから、レーラは深く突っ込むのを避けた。

 触れられたくない過去は誰しもあるもの。人が嫌がることを強要することは、レーラはしないのである。


「戻ってきたということは、またこれからも一緒にいられますか?」

「はい。……お許しいただけるのであれば」


 黙って抜け出したことを許せない、というのであれば出ていくという口振りである。銀の救護団はそこまで個人の理由を蔑ろにする集りではないと、レーラは考えている。


 人間、黙って受け止めてくれる場所の一つはあったほうがいいのだ。それは故郷だったり、家族だったり、生まれ育った家だったりするのだが、ガルのような者たちには、銀の救護団がそういう家であっていいと思うのだ。


「言葉で欲しいというのであれば、許します。……まあ、許すもなにもないのですけれど」

「……聞かないのですか?」

「聞いたら教えてくれますか?」


 悪戯っ子のように微笑むレーラである。ガルは首を横に振った。


「答えたくないことを無理に聞き出すつもりはないですよ、ガル。話したいことがあれば、聴きますけれど」

「では、一つ」


 ガルが口を開いた。敵がいるとか魔物がいる以外で、彼から声をかけられるのは珍しいとレーラは思った。


「伝手を使って魔王軍の残党を探しています。それでもしもの時は、俺は敵を討ちに行きたいと考えています」


 何となく察していた。だが口に出してくれたのは初めてだ。レーラは目を丸くする。


「それで……その時までは、ここにいてくれると?」

「はい。俺はレーラ様を守ると誓いましたから」


 銀の救護団の存在からすれば、敵が見つかるまでは護衛でいるが、その時になったらいなくなります、というのはある意味勝手な言い分ではある。


 だがレーラは、規則でガチガチに縛った組織なんて嫌だったし、ガルやカリュプスメンバーたちのことを見てきたから、さみしくはあっても責めるつもりはなかった。


「人生とは自由であるべきですから。やりたいことがあるなら、そのようにおやりなさい」


 レーラは、やはり微笑んだ。


「私も、そうしますから」



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