後日談83話、自分を見つめ直してわかること
かつての仲間たちと殺し合う――というと、ガルは何とも言えない気分になる。
ペルスコットの一族には、殺しの術を学び、今まで自分を生きながらえらせたことを思えば、感謝の念を抱くこともある。特に敵である魔王軍の残党を倒せることには。
しかし、だからと言って仲間か、と言われると首を捻る。
一族との付き合いは、惰性にも似たもので、放っておいてくれる分には構わない。だが、寄ってくると迷惑ではある。こいつらが関わると、ほぼ強制なのが確定だから余計に。
だが、仲間内で殺し合う状況を、面倒だと思っても拒絶感はさほどなかった。
これがカリュプスのメンバーだったり、たとえば銀の翼商会だったり、銀の救護団だったなら、躊躇いと忌避感が凄かったに違いない。
そう、そちらは「仲間」だ。ガルはそう認識している。友達付き合いは苦手で、向こうはガルのことを腕のいい戦闘要員としてしか見ていなかったとしても、仲間だ。
だがペルスコットの連中は違う。ここでは仲間を持ってはいけない。持てばその仲間を自らの手で殺さねばならないから。
同期は死に、そして今、若手のペルスコットの中での一番――ペルスコットの後継者が決まろうとしている。
この争いについても、ガルは面倒とは思っても、それ以外の感情は特にない。やはり、ペルスコットの一族に仲間という感情を抱いていないからなのだろう。
自分は冷たい人間なのだ。銀の翼商会、銀の救護団、そしてカリュプスメンバーといる時の落差に、ガルは思う。嫌ではないが、どこか寂しくもあった。
最終戦を控え、ガルは自分の最後の相手になるだろうルフ・ペルスコット、ブィ・ペルスコットのどちらか――それが勝ち上がってきたところを、どう始末するかを考えていた。
見世物よろしく正面から戦うのがいいのか、それとも勝負前に暗殺者らしく奇襲で始末するのか。
事実、勝ち上がったルフも、戦いの前で対戦相手を始末し初戦をクリアしていた。
ここは暗殺者しかいない。殺し方は自由だ。そして暗殺者であるからには、殺した者が正しい。
ひっそり討とうが、真正面からの戦いで堂々と倒そうが、殺せば勝ちなのだ。
暗殺者は戦闘になる前に仕留めるのが上策とか、大層なごたくを並べる者もいるが、そんなものは、騎士の戯言と同じだ。正々堂々と戦え、自分のやり方以外は卑怯だと相手を非難するのと何も変わらない。
自分が得意とするところで、勝てればそれでいいのだ。
そう考えた時、ルフ・ペルスコットは、勝ち残るだけあって優秀な暗殺者と言える。
ここではメイドに身をやつしているが、見た目に違和感はなく、一部のトチ狂った言動がなければ、ただのメイドにしか見えない。
さりげない会話や行動に紛れて、油断した同業者をいつの間にか殺すこともできるし、ブィ・ペルスコットとの戦いのように正面から戦って敵を打ち負かせる実力もある。
他の若手暗殺者も個々の能力、得意とする場では本領を発揮できる実力者ではあっただろう。トリーンやブィも町中に紛れて、こっそり不意打ちで敵を暗殺していたに違いない。
だが正面からの戦闘については、できなくはないが、一定以上の能力者が相手だと不利という欠点もあった。
それをカバーして仕事をするのが暗殺者であるが、それを言えば、ルフはあれでカバーする欠点がない、満遍なく強い暗殺者だった。
普通にフィジカルが強い。見ていないのは、魔法が使うところくらいか。
ガルは内心嫌なものだと呟く。手のうちがわからない暗殺者というのは面倒なものだ。ルフが魔法を使うか否か、その情報がまるでない。あれで魔法が得意です、と言われたら、ここまでよく温存したものだと思う。
ペルスコットの連中との付き合いは浅い。親しかった者は殺し合いですでになく、かろうじてペシクは同期だったから知っている程度に過ぎない。
同じ若手でも、ルフのことは『変な奴らしい』程度しか知らなかった。
さて、どうしたものか。ガルは屋敷内を歩いた。……手っ取り早く、終わらせられないか。
・ ・ ・
最後の戦いの時がきた。
結局、ガルは勝負前にルフを暗殺しなかったし、彼女もまたガルを暗殺してこなかった。
どうして、とは思わなかった。これから殺す相手との問答など意味はないから。
「――つくづく、あなた、素敵なお顔ですねぇ」
ルフは糸目であるが、微笑むとそれなりに美人だった。長い黒髪に清楚な見た目。暗殺者に見えないというのが、一種のアドバンテージではある。すでに暗殺者であるとわかっているから、意味はないが。
「殺してしまうのが勿体ないので、お顔は傷つけないように致します」
「……」
「喋ってくれないんですかぁ、ガルさん?」
「……」
「それでは生きていても殺しても変わらないですね」
ルフはスカートの裾をつかみ、お辞儀をした。
「お茶をごちそう致しますが、生きている間と死んだ後、どちらでご希望ですか?」
この娘が煽りが上手いのはわかっている。気のきいたことを言って、やりこめれば気分がよくなるのだろうか? ただ相手のペースに乗せられているだけな気がしないでもない。……もともと気がきいた返しなど思いつかないが。
そして、後継者を決める戦いは始まった。
「……動かないんですか?」
「……」
時が止まったようにお互い動かなかった。ガルは様子見するように相手を見据えたまま動かず、ルフもまた反応を窺う。
この娘は無駄に対応を考えているのだろうか、とガルは思った。相手の一挙手一投足を見逃さないように集中しているのを感じた。
――なるほど、これはメイドのスキルだ。
主人の反応ひとつで、何も言わずとも察して行動できる能力。メイド服は身分を隠すカモフラージュかと思っていたが、案外、どこぞの貴族など有力者のもとで、メイド生活をしていたのかもしれない。
――またいらない情報を拾ってしまったな……。
相手の情報を収集するのは暗殺者として基本だ。だがガルは、カリュプスにいて、その辺りの感覚が弱くなったと思った。
仲間たちが収集した情報をもとに動く、実行部隊として活動する期間が長かった。だから相手の情報について自分から探ろうという部分が弱くなっているのだ。
問答無用で始末すればいいのだろう――そういう雑というか荒っぽい思考になっているのだと自覚した。他人に対しての関心が薄い。ガルの性分がそれだけに、楽に情報を仕入れられる環境に甘やかされていたのだ。
銀の救護団を飛び出さず、聖女の護衛が重要としつつも迷っていた原因も、ひょっとしてこの部分にあるのではないか、とガルは自己分析した。
「――感心しませんねぇ、ガルさん。私がいながら、他のことに
ルフの表情は笑みのまま変わらない。表情と感情が一致していないから、恐怖を感じさせるそれ。
「さあ、戦いましょう!」
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