後日談67話、ソウヤ、帰還する


 記憶にある灼熱の時空回廊に戻ってきた。


 ソウヤは、ドラゴンの姿のまま、一気にマグマの上を通過し、神殿じみたその場所を飛び抜けた。


 今は、何か時間を戻す必要なものもないし、ここへ来たのはたまたまだ。出口がここに繋がっていたというだけで、時空回廊に用事があったわけではない。


 まさか神竜と出会うことになるとは――ソウヤドラゴンは飛行しながら、ぼんやりと思った。彼にも言ったが、これを知ったら大竜たちはどんな反応をするのか、今から少し楽しみである。


 しかし、まさか神竜がいるから、会いにいこうなどと言わないか心配になった。一応、ドラゴンたちにとっては神様であるわけで、その所在はわからない伝説の存在である。だが現実にいて、守護者という存在がなければ会いにいける距離、場所にいるのだ。


 少なくとも、大竜たちは神竜を祀った神社に行くくらいだから、可能性はなくもなかった。


 ――あの守護者というのはどれくらい強いのだろうか……?


 伝説の大竜よりは弱いだろうか? 普通に考えれば、クラウドドラゴンやアクアドラゴンのほうが強そうではある。


 そうこうしているうちに、神殿の外に出た。やはり空を飛んでいるとあっという間だった。スケール感が半端ないから、人間が徒歩でいこうとすれば、何時間かかることやら。


『さて、戻ってきたはいいが……』


 果たして自分はどれほど虚無にいたか。ソウヤは自然と顔をしかめていた。時間の感覚がなくなる場所にいて、時間を計るものもなければ、日にちすら定かではない。


 正直、ドラゴンの感覚からすると、日にちの経過などさほど気にするものでもないから、わからなくても少しも構わないのだが、魔王軍残党退治をやっていたことを考えると、さすがに問題である。


 とりあえず暗黒大陸へ飛ぶ。大陸南岸、山岳地帯にあるバローク遺跡都市に潜む残党へ攻撃を仕掛けている最中に、何かが起きて気づいたら虚無に飛ばされた。


 まずはそこに行くつもりだった。どうなったのか確認しようと思ったが、そこでふと、クレイマンの浮遊島に連絡を取るのが状況把握に一番早いと気づいた。お留守番していたアースドラゴンがいるのではないか?

 では早速、ドラゴンの念話を使おうとするソウヤだが、それより向こうが早かった。


『お主、ソウヤか?』

『アースドラゴン!』


 さすが大地のドラゴン。感知する力は、若竜であるソウヤより遥かに勝る。


『お主、無事だったか?』


 心なしか安堵しているように聞こえた。これはそれなりに時間が経っているのではないか。ソウヤは内心嫌な予感がした。


『ええ、虚無なんていうわけわからない場所に飛ばされていましたがね。……あれからどうなっているんです?』

『あれから、とは?』

『バローク遺跡の魔王軍残党を攻撃しにいった後です。オレ、どれくらいこの世界から消えていました?』

『四日くらい、かな』


 ――四日? たった四日?


 時間の感覚がないのは仕方ないが、想像より遥かに短かった。数ヶ月や年単位いなかったのではないか、そう思ったから。アースドラゴンと交信している時点で数百年はないだろうとは思っていたが、浦島太郎状態も正直覚悟していた。

 ここでもう一つ気になっている事を、ソウヤは質問した。


『それで、皆どうなりました?』

『うむ、説明するのも割と難しい状況でな。……どうやらお主だけ、違う場所におるようだが、ここへ来れるか?』

『えーと、どこになります? 浮遊島かバローク遺跡のどちらかに行こうと思っていたんですが』

『ならば、遺跡の方へこい。我もそこにおる』


 これはますます嫌な予感がするソウヤだった。


『ミストや仲間たち、アクアドラゴンもいたでしょう? どうなってるんですか? 無事なんですよね?』

『無事ではある。だが……まあ、とにかく来てくれ』

『……了解!』


 何やらただ事ではない雰囲気を感じ取る。無事ではあるらしいので、命がどうこうというものではなさそうだ。……神竜に会いにいかねばならないような事態ではないのは幸いだ。


 ――何があったんだ……?


 伝説の大竜さえ、説明に困るような事態とはいったい?



  ・  ・  ・



 バローク遺跡が見えてくる頃、ソウヤも異変を感じ取った。


 天候は雲は多めだが、晴れといってよい。見通しもよい。しかし、遺跡のある辺りが、灰色がかって見えた。

 前回訪れた時は、大地が剥き出しの荒野、岩場で、きちんと色があった。遠方から見てそれなので、かなりの広範囲だ。


 ――色があった……?


 灰色がかかったもの。色が落ちて、灰色と白黒の世界。まさか虚無空間のお仲間だったり?


『ソウヤよ、こっちだ』


 アースドラゴンの呼びかけ。それでどこにいるか把握すると、灰色の空間の手前に、アースドラゴンとクラウドドラゴン、そしてジンに仕える魔法人形が数体いた。

 ソウヤドラゴンは降下すると、人型に戻った。


「お待たせしました」

「よい。よくぞ無事だったな」


 仙人じみた姿のアースドラゴンが言えば、灰色髪の美女姿のクラウドドラゴンも頷いた。


「あなたも巻き込まれたと思っていたけれど、無事だったようね。どこにいたの?」

「変な場所に飛ばされていました。話せば長くなるんで、それは後で。……それでこれは何です?」


 目の前に広がっている灰色の空間は何なのか。遺跡とその周辺にドーム状に広がっている、怪しい現象について。


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