後日談68話、灰色空間の本質に気づくソウヤ


 バローク遺跡とその周辺を覆う灰色の空間。これについて、ソウヤが問えば、アースドラゴンはその仙人のような髭を撫でた。


「我にもよくわからぬが、一つ言えることは、この灰色は、どうやら時間が止まっているようだ」

「時間が……?」

「そう」


 クラウドドラゴンは頷いた。


「あれが見える?」


 彼女が指し示す先を目で追うソウヤ。灰色の空間の境目に入ったすぐに小石が浮かんでいた。


「投げ入れたら、見ての通り。灰色の空間の中で空中で静止している。試しに魔法人形を入れたら――」


 周りにいるクレイマンの人形たち。


「体の一部が入っている状態なら問題ないけれど、全身が入ったらそこでピタリと動けなくなった」

「で、外から引っ張り出したら」


 アースドラゴンは告げた。


「灰色の空間内で動けなくなっていた時のことを覚えていないそうだ。ただ動けなくなる空間ではなく、意識なども時間が止まったことで把握できなくなるのだろう」


 だから灰色の空間に入った時の記憶が人形にはない。


「下手に入ると、時間が止まるせいで動けなくなってしまう。つまり、入れないということですか?」

「然り」


 アースドラゴンは、灰色の空間を見やる。


「だから、ほれ。上を見よ」

「……!」


 ゴールデンウィング二世号は、かなりの高度にあるのだが、それも灰色の中だった。そもそも遺跡より広い範囲が灰色の空間となっているので、その上空もアウトだった。


「ミストやフラムも?」

「おそらくあの中で、静止していると思われる」


 そこでアースドラゴンは視線を戻した。


「お主はどこにおったのだ? しばらく消えておったようだが、一緒ではなかったのか?」

「一緒にいましたよ。アクアドラゴンが大暴れしていて、オレも皆と一緒に飛空艇にいたんですけど」


 突然、遺跡から闇色の魔力を感知したと思ったら、気づいた時には虚無世界にいた。どうしてそうなったのか、ソウヤ自身もわかっていない。


「何かが干渉したのか、虚無っていう不思議空間に飛ばされました。で、ようやくそこから出てこれたので、戻ってきたんですが……」

「虚無……」


 ドラゴン二人は顔を見合わせる。言葉だけでは実感がわかない雰囲気なのをソウヤは感じた。

 しかし今は、その話は置いておいていい。


「ゴールデンウィング号の方をどうにかしないといけないな」


 どうしたものか。空にあること自体は、ソウヤがドラゴン化して飛べば行けるので問題はない。灰色の空間に飛び込まなければ……。


 だが船に取り付くには、灰色の空間に入らねばならない。その時点で体は時間が経過しない空間に捕らわれて、おしまいだ。


 ――時間が経過しない、ね……。


 ソウヤは、灰色の中、浮いている石を見つめる。放り投げたら、灰色の空間内に浮いたままになっている石。


 ――オレのアイテムボックス内でも、あんな感じなのかなぁ。


 時間経過無視。時間の流れない場所を作れるソウヤの特別製アイテムボックス。かつての魔王も放り込んで封じている以外にも色々使っているそれだが、ふと閃くものがあった。


「この灰色の空間、ひょっとしてアイテムボックスの時間経過無視空間が展開されているのでは?」

「どういうこと?」


 クラウドドラゴンが、ソウヤの呟きに反応した。ソウヤは、それが起こった時のことを思い出しながら答えた。


「突然、闇色の魔力が広がったんですけど、魔法か、それか魔道具が使われたと思うんですよ。で、その効果ってのが、この灰色空間なんですけど、これアイテムボックスの中の空間を外に出したんじゃないかって思ったんです」

「?」


 うまく伝わらなかったのか、クラウドドラゴンは首をかしげた。ソウヤは少し考える。


「ほら、オレのアイテムボックスの中に、家とか居住区があったでしょ? それを外に出した状態って言ったらわかりますか?」


 外に出せば、アイテムボックスハウスも外で家として存在する。アースドラゴンが、どこか理解し始めたような顔になった。


「それで話を戻すと、時間経過無視の空間がオレのアイテムボックスにあるんですけど、それをもし外に出したら、こういう時間が経過しない空間ができるんじゃないかって思ったわけです」

「ふむ、何となく言わんとしていることはわかる」


 アースドラゴンが重々しく言った。


「それで、この灰色の空間とお主のアイテムボックス内のそれが同類だとして、そこからどうなる? 何か解決策は?」

「やってみないとわからないですけど、この灰色空間、オレのアイテムボックスに収納してみようかな、と」


 ソウヤは灰色に近づく。クラウドドラゴンが首を傾けた。


「それ、大丈夫?」

「ぶっちゃけ、アイテムボックス内に入れられれば、どうとでもなる気がするんですよね」


 手を伸ばし、灰色空間に触れるソウヤ。全体が入ったらおしまいだが、体の一部が入るくらいはセーフだと、魔法人形たちが試したと聞いている。


「一度、収納してしまえば、アイテムボックスが識別するんで、そこから中で静止している仲間たちやゴールデンウィング号も取り出せると思います」


 この灰色空間のそれが、アイテムボックスの時間経過無視空間と同質なら、充分可能だ。そんなわけで――


「収納」


 ソウヤは唱えた。灰色が消えた。



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